イラストレーター、アニメーター、ディレクター、作詞家のHama-House。 彼のキャリアは、斬新なセンスよりも、技術と論理的な思考、「クスッ」と笑える瞬間を作る関西人の気質を土台に築かれています。 自身を「人間プリンター」と称してさまざまな作風を自在に描き分けるスタイルは、多様なクライアントワークに柔軟に応えるプロフェッショナルの姿勢を象徴しています。 鎌倉へ拠点を移して振り返る東京への思いや、バズを狙わず「SNSと少し距離を取る」創作へと向かった思考を通して、彼の制作哲学に迫ります。
イラストレーターの意外な出発点:「絵が好き」ではなかったキャリアの始まり
どのようにクリエイティブの道を歩み始めたのか、教えていただけますか?
子供の頃は、まったく絵を描いてませんでした。高校生の時に「もう勉強したくない」と思って、突然美大を目指すことにしました。 同じ美大を受験する友達がプロダクトデザイン専攻志望だったので、かぶらないようグラフィックデザインで受験して、入学しました。 でも美大に入ると、それまでの「勉強ができる人・スポーツができる人がすごい」という基準が、いきなり「絵が上手い」に変わるんですよね。 コミュニティのルールが突然変わって、「やばい」と思って慌てて絵の練習を始めました。 だから本当は、「小さい頃から絵を描いていました」と言いたいんですけど、全然ないです。モテたいとか、勉強したくないとか、そういう理由で始まり、食べていくために絵を描いているうちに、今に至る、という感じです。
Hama-HouseさんのInstagramを拝見して「発想の起点がとてもユニークだな」と感じました。 絵を描くことそのものより、仕組みを作ったりアイデアを出したりすることが好きなのでしょうか?
それはすごく好きですね。 ただ、絵も今となっては結構好きです。 かなり練習したので、頭の中で思いついたものを、人間プリンターみたいにそのまま描けるのが楽しいです。
どのようなタイプのお仕事をされることが多いですか?
この仕事に就いた頃は紙媒体が多かったのですが、それは今では10〜20%ぐらいで、アニメーション制作とWebの挿絵がメイン業務です。
お仕事で描かれているイラストは、Instagramに載っているスケッチやドローイングとは全然違ったジャンルのイラストなんでしょうか?
いろんな種類の絵を描きます。Instagramでは、クライアントワークが載せられない傾向が年々強まってるので、相対的にプライベートワーク中心になってます。
ご自身の強みはどんなところだと感じていますか?
技術です。 大きなクライアントの決裁権を持っている人に刺さりやすいものって、凄く尖ったものより「ハイセンスかどうかは分からないけど、技術的に確かなもの」と思ってます。

理詰めの発想術:ニーズを分析し、ユニークさを導き出す
Hama-Houseさんが最初にイラストを職業として意識されたきっかけをお聞かせいただけますか?
大学を卒業して会社員になり、映像のディレクターやデザイナーをしていました。 音楽が好きで当時アマチュアバンドをしていたのもあって、副業で音楽雑誌の挿絵の制作を始めました。 音楽雑誌の挿絵は単価がかなり安いのですが、会社員の収入があったので、「これで食べていきたい」というより、ただ好きでやっていました。 自分が描いた絵が本屋に並ぶ、というのが面白かったんです。 その後だんだんイラストの依頼が増え、会社勤めが億劫になっていき、あるタイミングで「もうこれでやっていこう」とイラストレーターになりました。 そこからは、締切をこなす日々です。
なるほど。何かに舵を切って挑戦するというよりも、流れの中で自然に展開していくタイプなのでしょうか?
もちろんイラストレーターとして「こういう絵が好き」「これを描きたい」という表現欲求はありますが、仕事の依頼に応えていくことを中心にやってきたので、流れに流されるタイプだとは思います。
ここまで活動を続けてこられた理由や、どんな事が支えになったのかもお伺いしたいです。
仕事のフィーと、家族・友人からの応援が日々の支えです。
ご自身の制作において、成長を感じられたのはどんな時ですか?
10年以上前に作ったものを見た時ですね。 視点の変化でアウトプットの質が変わることはたまにありますが、基本的には技術的成長は急にはやってこないのが、この仕事の面白いところです。
例えば、街をスケッチした場所の一覧が見れるマップだったり、顔を描かずにその人の雰囲気を出すイラストだったり。 そういったユニークな発想の起点はどこから来るのでしょうか?
発想が面白いと言ってもらうことは多いのですが、自分としては「頑張ってひねり出した」というより「ニーズがあるからこうあるべき」と理詰めで考えた結果です。 そうやってアイデアを導き出した結果が「ユニーク」と評価されているという感覚ですね。
自然と出てくるものなんですね。
もちろん、みんなが「おっ」と言ってくれたらいいなという気持ちはあるので、見たことがあるものより見たことのないものを目指しているというのはあります。 それがうまくつながった時にいいものになっていればいいな、と思いながらやっています。
活動をされていて「この瞬間のためにやっているんだ」と思う瞬間があれば、教えてください。
クライアントワークだと「クライアントに満足してもらう」ためにやってます。 プライベートワークだと、なんだろうな。 面白いと言ってもらいたいというのはあります。 僕は関西人なので、「突っ込まれたい」と思いながら作っているということに、最近気づきました。 僕が作るものって、ツッコミどころを残して作るというか、結構「苦笑」を生むものが多い気がしています。 逆に僕がやらないスタイルとしては、抽象画みたいなものです。 例えばキャンバスに絵の具を撒いて「かっこいいだろ」と言われると、もうかっこいいとしか言いようがない。それは僕の中の遊びとしてあまり面白くなくて。 クールなものを作るというよりは、下手したら全然面白くない可能性がある枠の中で、どうやったら面白くできるのかという遊びが面白い。 その滑りそうな世界で何か作って、うまく着地したい。そう思って色々作ってます。
「どげざ(土下座)」の字を絵に見立てるイラストなどのシリーズも、思いつきそうで誰も思いつかない感じが、とても面白い発想だなと思って見ていました。
同業の友達からも「初めて天才と思った」とか褒めてもらったんですけど、結構作って全くバズらなかったんでやめました。 スベッたんだと思います…
イラストレーターの中には表現者としての側面を強く持つ方も多いと思いますが、Hama-Houseさんはご自身を人間プリンターと表現されていたり、「自分は理詰めをする方だ」と語られていて、リアリストな側面を持っている印象を受けました。
イラストレーターには「これがかっこいい」と言い切らなきゃいけないミュージシャン的な側面があります。 ただ僕は関西の「かっこいいって恥ずかしい」文化圏の影響で、スタジオミュージシャン的、裏方タイプになってしまった。 そんな気がしてます。
とても面白い例えですね。 Hama-Houseさんのような独特の視点をお持ちの方がumuに出てくださるのはとても嬉しいです。
面白いと言ってもらえるのが一番嬉しいので、ありがとうございます。


「無所属」イラストレーターとして生きる:多様なスタイルで実現する活動
他のイラストレーターと比べて、自分はここがユニークだと思うところはありますか?
イラストレーションファイルみたいな年鑑にも載ったことなく、何の団体にも所属してない。 本当の野良犬みたいなところがユニークかなと思ってます。
それは意図的にそのようにされているのですか?
意図的ではないですが、タッチが多すぎる人は、業界の中では扱い方が謎になるんだろうなと思ってます。
面白いですね。 いろいろなタッチを一人で描いている方はあまり他にはいないのでしょうか?
複数のスタイルを商業レベルで描き続けている人は、自分の知ってる範囲では日本では数人という印象です。
でも、ご自身にとっては一つのスタイルに絞るより、いろいろ描く方が自然だったということですよね。
そうですね。 例えば仕事で人物線画が必要な場合、媒体に合わせて等身バランス・線の雰囲気など細かくチューニングできた方が良いと思います。 そういうことを色々な案件で対応していくと、自然と沢山のスタイルを持つことになる、というのが自分の感覚です。 強固な一つのスタイルを作ると、それが世間に定着する頃には作家が飽きてる、という話をエージェントから聞くこともあります。 そういった意味でも、飽き性の自分には今のスタイルが合ってると思います。
なるほど。ご自身が楽しめるスタイルを作っているということですね。
そうですね。その代わり、「このタッチのイラストレーター」として覚えられるタイプではないと思います。 いわゆるキラキラした分かりやすいキャリアにはならないかもしれません。
でも、「デザインあneo」のアニメーション作品などを見ると、有名な存在だと思います。
そうですね。ああいう作品単位で知られることはあると思います。 ただ、「このスタイルの人」という形で認知されるタイプではない、という感じですね。
とても面白いです。ありがとうございます。 Instagramを拝見した時、ドローイングと書かれていたので、どんな作風の方なんだろうと思って見ていたのですが、本当にタッチも表現方法も多様な方だと感じました。 Hama-Houseさんが、どのように物事を捉えて形にされる方なのかが気になっていたんです。
確かに「何なんだろう」と思われますよね。 多分、クスッと笑ってもらいたいという気持ちが強いんだと思います。 同じことをずっと続けていると面白くなくなるので。 見る人が飽きる場合もあれば、自分が飽きる場合もあります。だから飽きないようにする、ということですね。
どんなアートを面白いと感じますか?
アートの横にある「キャプション」が最近面白いです。 多くの人はキャプションの文字情報からたぶん影響を受けすぎていて、有名漫画の台詞「お前はラーメンを食っているんじゃない、情報を食っているんだ」状態。 その構造を意図的にハックしてるっぽいキャプションを見かけると、面白いなと感じます。

理不尽な修正を乗りこなす柔軟な思考
キャリアの中で難しいと感じたことや、憤りを感じたことはありますか?
もちろん大変なことはあります。 イラストレーターとして1番厳しいのは、やはり仕事が来ないことで、2番目に厳しいのは、理不尽な修正です。 でも社会ってそもそも理不尽なので、会社員出身のせいか、自分は割と理不尽耐性があるほうだと思ってます。
ある種の諦めという感じでしょうか。
そうですね。諦観しているような感覚です。
ご自身の職業として、イラストレーター、アニメーター、ディレクター、作詞家とありますが、肩書きという概念を外してみた時に、ご自身のアイデンティティをどう捉えていますか?
シンプルに、「いろんなことをする人」です。
東京は「クリアできないRPG」:無限の選択肢と有限な人生
東京とは、Hama-Houseさんにとってどんな場所ですか?
無限に広がり続ける場所ですね。東京を離れたからこそ、そう感じます。 町に行って、住人に話しかけたりして進んでいくロールプレイングゲームがあるじゃないですか。 人生をゲームと例えることには良し悪しがありますが、仮にゲームだとすると、東京は絶対にクリアできない街。無限に人に話しかけられる場所というか。 例えばパスタを食べに行こうとなった時、東京の中心部でどれだけ調べても「ここが一番の店だ」とは確信できません。 若い頃はその無限感が楽しいんですが、歳を重ねてキツく感じ始めて、あるとき鎌倉に移りました。 鎌倉はゲームで言うとマップの端で、海があって地図の南には行けない。町が小さいので、パスタならここ、いま酒飲むならここ、とベストを選んだ気になれる。 それが個人的にすごく良いです。
なるほど。人生はゲームだという言葉はよく聞きますが、そう捉えることの良し悪しという観点で考えたことがなかったです。 その「悪い面」というのはどういうことなのでしょうか?
良い面は、物事を整理できるところです。 ものを数値化すれば、ゲームのように扱いやすくなります。ゴールを設定、達成したらポイント増える、みたいな。処理しやすいですよね。 でもゲーム化すると、自分で自分を俯瞰で操作することになります。 そうすると、例えば好きなミュージシャンのライブに行った時「ライブを見てる自分」を見てしまう。音楽と一体化して楽しむことが出来なくなる。 実感みたいなものが薄くなることが、ゲーム化の悪い面だと思ってます。
最後のスケッチ展、そして "職業" SNSから距離を取る
もしお仕事が一切関係なかったとしたら、どんなものを描きますか?
「分かる部分と分からない部分のバランスがちょうどいいもの」を作っていきたいと思ってます。
Instagramには、ご自身が好きなものを掲載されているのですか?
そのつもりですが、SNSの構造に流されて「短いスパンで作れるもの」を作りすぎてる感覚があります。 なので、これからはSNSと少し距離を取り、もう少し時間のかかるものを作っていきたいです。
ニーズに応える感覚が鋭いからこそ、自分のエゴのようなものは抑えた投稿になっているのかもしれませんね。
もっと作品の質を上げるために、一度しゃがむ必要があると思っています。 高くジャンプするにはしっかりしゃがまないといけないので。
なるほど、その通りですね。 続いて、これからのことについて教えていただけますか?
4月17日(金)〜26日(日)、鎌倉のPOMPONCAKES GARE で「線」というスケッチ展を行っています。ここ10年ほど描いてきたライフワークのスケッチを大量に並べる予定です。 ワークショップなども行う予定なので、興味ありましたらSNSなどで確認していただけたら嬉しいです。
ありがとうございます。 最後の質問です。この道に進む人や過去の自分へメッセージを伝えるとしたら、どんな言葉をかけますか?
イラストレーターって、みんなそれぞれ違う方法でなってるし、時代の違いもあるしで、僕が他の人にアドバイスできることなんてほぼ無いと思ってます。 ただ過去の自分には「関西の田舎出身者が東京育ちの人とセンス勝負しても勝てないよ。とにかく早く技術を身につけろ」そんなメッセージを送りたいです。
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