Kazuya Okawaは、愛知を拠点に活動するグラフィックデザイナー・アートディレクターです。 高校時代に大きな病を経験したことをきっかけに、自分の生き方や表現と真剣に向き合うようになり、やがて「誰かの想いに触れることができる仕事」としてデザインを選びました。制作物の表層ではなく、相手との対話や判断の積み重ねを大切にしながら、言葉にならない感情や価値観を丁寧に読み取ってきたKazuya。その誠実な向き合い方は、仕事の成果だけでなく、長い時間をかけて築かれる信頼として表れています。 本記事では、彼のキャリアにおけるこれまでの選択と、静かな情熱を胸に創作に向き合う姿勢をたどります。
自己紹介
まずは、自己紹介をお願いします。
1981年生まれの、愛知県在住のデザイナー・ディレクターです。名古屋を拠点に、ブランドや個人の想いから価値あるクリエイティブを生み出す仕事をしています。グラフィックを中心に、言語・空気・温度のような目に見えない部分も含めて、その人や場所が持つ「らしさ」を丁寧に可視化していくことを意識しています。
きっかけ
Kazuyaさんがデザインを始めたきっかけはなんですか?
高校生の時、命に関わる病気で長期入院していました。そこで自身の将来を改めて真剣に考えて、退院したら美容師を目指そうと思いました。雑誌や専門学校の資料を沢山集めていたんですが、ある雑誌に載っていたバンドTシャツのグラフィックを見て、衝撃を受けました。そこから、自分も音楽カルチャーの中で誰かの人生を変える様なデザインを生み出したいと思い、デザイナーになると決めました。 幼い頃から、言語だけでなく音やかたちで自分の心の中を整理することが習慣のようになっていて、誰かに求められて始めたというよりも、自然とこの道を選んだのだと思います。自分では意識してなかったのですが、デザイナーとして仕事を始めた時、幼い頃からの友人が「そうなると感じていた」と語ったのが印象的でした。
デザイナーとして一番最初のお仕事・プロジェクトのエピソードを覚えていますか?
専門学校卒業後、あるバンドのウェブサイトで「デザイナー募集」の求人を見つけました。そこに連絡をとって、ロゴやCDジャケットのデザインを制作させてもらいました。バンドには同い年のメンバーもいて、一緒にアルバイトした記憶もあります。それから、ライブハウスに通うようになり、フライヤーを中心に音楽関係のお仕事が増えていきました。その経験が、デザイナーとしての原点です。
創作や仕事のこと
Kazuyaさんは「個人の想いを可視化する」というコンセプトを掲げていますね。そのことについて、是非お聞かせください。
「個人の思いを可視化する」ということは、純粋に言語化された表現や想いを形にしていくという意味ではありません。本人自身が言葉に表したことのない内なる熱量や、まだ曖昧で漠然とした願いの輪郭を捉えていく作業のことを指します。雑談も踏まえた対話の中で、相手が抱く想いの核心を追求していきます。 クライアントが実際にはどのようなことを考え、思っているのか、その核心を探求することで、本人でさえ気づかなかった本質的な希望を汲み取り、話の中では出てこなかった新しい発想を生み出すことができます。それは、クライアントの意向に一歩踏み込んだアイデアを提案するということです。 実際にクライアントの要望を満たすだけではなく、クライアントが本当に伝えたいことは何かを掘り下げて考えた結果、リスクのある提案をした経験があります。最終的に、その姿勢が、信頼につながりました。クライアントの隠れた課題を導き出しクリエイティブに落とし込む事が、何より大切だという事を意識して仕事をしています。アイデアを共有し、一緒になって作り上げていく事で、長い年月を超えても、消費されずに在り続ける価値のあるクリエイティブになると信じています。
ここまでくるのにたくさんの挑戦やリスクを取られてきたと思います。そのような難しい局面で、どのように判断や意思決定をされてきたのですか?
最終的には「自分が誠実でいられるかどうか」を意思決定の基準にしています。加えて、その目的や、それに関わる人にどのような影響を与えるかということを考えたうえで判断しています。自分が関わることで、その人が新たな視点を持てるような、価値のあるアウトプットを意識して伴走しています。 例えば、クライアントから求められているデザインの方向性は明確になっているが、その人が本当に大切にしている価値観はその方向性では表現しきれないと感じたことがあります。その時にクライアントの希望通りのアウトプットを選択することもできましたが、あえて言語化されていない部分に焦点を充てる決断をしました。その場ですぐにいい評価をもらえる選択ではありませんでしたが、後から振り返って「あの判断が軸になっている」と言ってもらえたことがあります。 そんな経験から、どんな結果に至ったかということより、判断を要する場面で自分がどんな思いでその選択をしたのかを大切にする方が、長い目で見て、確かな成果に繋がると感じています。
これがないと活動ができない!という必需アイテムをシェアしてください。
お金、時間、健康。 どれも創作を続けるための “静かな基盤” です。この3つがないと冷静に考えることも、実験することも出来ません。心が震える瞬間を形にするには、絶対に必要な栄養みたいなものです。 余白や呼吸のある日常の中でこそ、良い仕事が生まれる気がします。 実際、すべてをうまく保てているわけではないですが、これだけは削ってはいけないというものを先に決めています。特に睡眠や食事などの健康の基盤と何かを考える時間は大切にしています。それらがなくなると判断が雑になり、結果的に仕事の質も下がってしまいます。 完璧なバランスを目指すのではなく、崩れたときにいち早く立て直せるような状態を作るように気を付けています。
キャリアやスキルをレベルアップさせるために、どのように学びや経験を積まれていますか?
新しい知識を「学ぶ」というよりも、日々の違和感や好奇心をそのまま追いかけるようにしています。気になる展示を見に行ったり、まったく関係のない分野の本を読んだり。直接的なスキルアップよりも、感性の幅を広げることが最終的にデザインの深みに繋がると感じています。 あとは、他者と多く対話することを心がけています。誰かの考え方に触れることで、自分の思考も磨かれていきます。
つくる楽しさと難しさ
デザイナーやアートディレクターの仕事をしていて、最も幸せだと感じる瞬間はどんな時ですか?
その瞬間は “つくる” という行為の中に常にあります。考え、迷い、手を動かし、形になり、また壊す。その循環自体が、自分の呼吸のように感じられるからです。 クライアントの想いが、自分のデザインを通して “届いた” と感じる瞬間も幸せです。打ち合わせの終わり際に、それまで理性的に話をされていた方が、ふと表情をゆるめて「これでいけそうですね。」という時があります。それは大きなリアクションや称賛ではありませんが、その言葉や雰囲気からクライアントが納得してくれていると感じます。そのような小さなリアクションや雰囲気を成果の一歩と捉えています。 言葉よりも先に現れる、態度や空気の変化は、誰かの中にあった曖昧で言葉になっていない気持ちが、形になって動き出した瞬間であり、その瞬間に立ち会えることが、この仕事の一番の醍醐味です。
反対に、一番大変だったことや「やめたい」と感じた経験、もしよければシェアしてください。
「自分の言葉が通じない」と感じた時です。デザイナーは共通言語を探求する仕事だと思っていますが、ときに価値観や温度が噛み合わず、何をどう伝えても届かないように感じる瞬間があります。それでも、様々な苦しい経験を経て、諦めずに相手を理解したいと思えるようになりました。
キャリアを築く上で、どんな不安や葛藤がありましたか?
クライアントの理想と自分の表現の間にある距離感には常に不安を感じていました。本当にこの方向で良かったのか、何度も立ち止まる瞬間がありました。不安や葛藤を抱えながらも、その都度、自分の「何故つくるのか」を更新してきた気がします。そんな葛藤そのものが、今の自分を形成していると思います。
そんな風に落ち込んだ時ややる気が出ない時、モチベーションを維持するために心がけていることはなんですか?
無理に前を向こうとせず、立ち止まるようにしています。気持ちを切り替えるよりも、自分の中の違和感を見つめ直すよう心がけています。やがて気持ちが整理されて、また行動できる瞬間が来ます。焦らず、自分のペースを信じることです。デザインにおいて、最初に気付きを得られるのはいつも「心が震える瞬間」なので。 その瞬間を追い求めるのではなく、静かにそれを待つ時間もまた、制作の一部だと思っています。


価値観の定義
Kazuyaさんにとって、デザイナーやアートディレクターの仕事にはどんな意味がありますか?このキャリアを始める前と今では、どんなことが一番変わりましたか?
自分にとってデザインは、職業というよりも「他者と対話するための態度」なのかもしれません。言葉にできない想いや感情をどう伝えるか、その探求の先にあるものがデザインだと思っています。対話の裏にある言葉にできない想いや感情を表せた時、この仕事の意味を感じます。 デザインは、世界の見え方を変えてくれました。日常の中にある “意図” や “想い” に気付くようになりました。誰かの選んだ色や言葉、その背景にある感情まで想像するようになったのです。 デザインは、世界を美しく整えるための技術ではなく、「なぜそれを美しいと思うのか」を問い続ける行為だと思います。形の裏側にある意志や、ほんの小さな違和感に耳を澄ませる。そうやって世界を見る目が、少しずつ変わっていった気がします。
日本や東京への想い
東京はKazuyaさんにとって、どんな場所ですか?
東京で世界的なデザイナーのイベントに出展しました。他の出展者は多様で才能が溢れ、とても刺激を受けました。東京は、世界に繋がるキッカケが眠っていると感じました。 東京は、自分を試す場所であり、鏡のような存在です。その流れの中に身を置くことで、自分の感覚も自然と磨かれていくように感じます。そして、多様な価値観とスピードの中で、自分の信念が浮かび上がる気がします。刺激的でありながら、孤独も創作の原動力になります。
これからの道のり
今後達成したいことや、考えうる「一番遠い未来のご自身の姿」はなんですか?
「記憶のかたち」をテーマにした表現に興味があります。写真や言葉、色の断片から、当時の空気感や感情がふいに蘇る瞬間があると思います。そこから記憶というものは、頭に残る既成事実ではなく、形を変えながらも残りゆくものだと感じました。 誰かのそんな時間がたってからふと湧き上がってくる記憶や感情の断片を、どうやったらデザインとして可視化できるかを考え、それを、グラフィックや空間、音などの異なるメディアを横断してひとつの体験として形にしてみたいと考えています。個人の想いをより深く、感覚的に伝える方法を探しています。
大きな目標に向けて、一歩ずつ進むためのKazuyaさんなりの方法があれば教えてください。
「いま目の前にあるものを丁寧に整える」ことです。遠くを見すぎると足元がぶれるので、日々の選択や生み出すデザインを大切に扱うように心がけています。その積み重ねが、いつのまにか大きな流れになっている。焦らず、静かに続けることが自分なりの行動指針です。


届けたいメッセージ
過去の自分、このキャリアを目指して悩んでいた頃の自分に今の自分が何を伝えるでしょうか。もしあれば、ぜひシェアしてください。
「正解を探すより、選んだ道を正解にしていけばいい」と伝えます。現実の仕事はそんなに綺麗じゃありません。制約の中で、時には妥協や調整を重ねながら、それでも何か “本質” を掬い上げようとするものだと思います。それを続けていく内に、理想のあるべき姿って「遠くにある完成形」ではなく、「その瞬間に自分がどう向き合うか」の中にあるんだと気付きました。 デザイナーのキャリアって、光る瞬間よりも、見えない時間の積み重ねで出来ているんだと思います。誰かの真似じゃなく、自分の手で現実を整えていき、それを繰り返すことで、気付いたら “自分” というデザイナーの姿が形成されていました。だから今、あの頃の自分に言うなら「理想と現実の間で迷っているその瞬間こそ、デザインの本質に一番近い場所にいる」と、伝えたいです。
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