清澄白河に生まれた、リソグラフと試行錯誤の実験場

清澄白河に生まれた、リソグラフと試行錯誤の実験場

Nagi Aozumi

2026年4月10日

リソグラフとシルクスクリーンができる「STUDIO tuuli」の創設者であり、店長の青澄 凪。 建築士志望からデザイナーへ転身し、現在はデザイン事業と並行してアイデアや出会いが自然に行き交う「表現の実験場」を運営しています。 「好き」の気持ちを原動力に、試行錯誤の過程を大切にする環境づくりに注力する青澄氏。「海外のアートブックフェアへの挑戦」と「自社出版物の拡充」という目標を通じて、クリエイティブ業界の未来を語ります。

建築からデザインへ、軽やかなフットワークで変化を愉しむ。デザインとアートスタジオの二本柱

自己紹介をお願いいたします。

青澄 凪(Nagi Aosumi)アートスタジオ「STUDIO tuuli」店長。1994年生まれの広島県出身です。 大学では建築・都市デザインを専攻し、二級建築士を取得しました。新卒フリーランスでグラフィックデザインの仕事に携わりました。

2025年3月にリソグラフとシルクスクリーンができるオープンなアートスタジオを設立。趣味は美術館めぐりです。

事業のご紹介や、特徴について教えてください。

デザイン事業とスタジオ事業をしています。

デザイン事業では、グラフィックデザイン・Webデザイン・空間デザインを手掛けています。 スタジオ事業では、東京都現代美術館から徒歩5分の、リソグラフとシルクスクリーンができる完全予約制のアートスタジオを運営しています。POPUP展示やZINEの閲覧・購入もできます。

チームメンバーやクライアントの方を含め、どんな方と一緒に仕事するのが楽しいですか?

自分と考え方が違う人と意見を交わしながら、新しい視点に出会える仕事が楽しいです。 アイデアをどんどん出し合い、試すことを楽しめる関係性に魅力を感じます。

フットワークが軽く、変化を前向きに受け止められる方と一緒に働きたいです。

普通の日の、1日のスケジュールを教えてください。

朝は6時に起床して、家事や育児を始めます。9時30分ごろにデザインの業務に取り掛かり、12時にお昼休憩をとります。

13時からはスタジオでの業務に移り、17時には子どもを保育園に迎えに行きます。帰宅後の18時からは再び家事と育児の時間となり、19時に家族で夕食をとります。

そして、22時からはようやく自分の趣味の時間として過ごし、24時に就寝するというのが、だいたいの流れです。

オフィスの雰囲気をぜひ教えてください。 なぜ清澄白河という場所を選んだのでしょうか?

STUDIO tuuliのオフィスは、下町風情溢れる美術館通りに面したガラス張りのオフィス兼アートスタジオです。Tokyo Art Book Fairの会場である東京都現代美術館から徒歩圏内の場所に物件を探しました。 内装はほとんどDIYにこだわり、ZINE・アートブック・ポスター等のお気に入りのアート作品に囲まれながら働いています。

趣味の美術館めぐりで集めた展覧会の図録、デザインに関する書籍を置いていて、それらを参考にしながらデザイン業務をしています。また、国内外のアーティストたちのZINEコレクションもあり、自主制作をする際に印刷・製本の参考にしています。

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風(tuuli)が運んだ7年間。アイデアと出会いが巡るアートスタジオの軌跡

設立の歴史について、ご紹介いただけますか?

2018年に大学卒業後、2019年1月仙台にてデザイナー名青澄凪を屋号とする個人事業主として開業しました。 2020年7月東京に移住。2021年東京にて出会ったデザイナー仲間とデザイン会社を設立し、デザイナーとして従事。

2024年には活動の形態を夫婦でのクリエイティヴユニットに変更し、それに合わせて屋号もSTUDIO tuuliに変更しました。 事業の多角化を目的として2025年3月に、アートスタジオをオープンしました。

大学では建築を専攻し、当初は建築士を志していました。しかし、企業組織の中で働くことに違和感を覚え、自分らしい働き方を模索していました。 将来の生計を考えたとき、学生時代に培った設計や表現のスキルを活かせる職業として、デザイナーの道を選びました。

なるほど。屋号にはどんな意味が込められているのですか?

屋号の「tuuli」は、フィンランド語で「風」を意味します。 目には見えなくても、人や場所の間を巡り、何かを運んでくる存在である風に由来しています。さまざまなアイデアや出会いが自然に行き交う場でありたい、という思いを込めています。

フィンランド語にした理由は、もともと居心地のよい空間や心安らぐ時間を大切にする北欧の価値観に惹かれていたところから来ています。 スタジオ名を考える際も、風のイメージを軸にしながら、その空気感や世界観に通じる言葉を探しました。

さまざまな国の言葉を検討した結果、響きの美しさと北欧とのつながりから、フィンランド語の「tuuli」を採用しました。

印象に残っている出来事やプロジェクト、お客さんの声などはありますか?

2023年のTokyo Art Book FairでリソグラフやZINEと出会ったことが、今につながる大きな転機でした。

そこから2年後、スタジオをオープンし、2025年のTokyo Art Book Fairに初めて出展する側として参加できた瞬間は強く印象に残っています。日本最大級のアートブックイベントであるTokyo Art Book Fairは、世界中のクリエイターが集まる場です。出展には審査を通過する必要があり、選ばれたアーティストや印刷所、本屋だけがブースを構えることができます。

見る側だった場所に、作り手として立てたことに大きな意味を感じました。ZINE作家としてだけでなく、リソスタジオとして自分たちの活動が世界のクリエイターの中でどこまで通用するのかを確かめる、貴重な機会となりました。

また、デザイン業の仕事で「数多くいるデザイナーの中から、あなたにお願いして良かった」と言っていただいたことも忘れられません。 いつでも、どんなことでも気軽に相談できる存在でありたいと考えています。悩みを必ず解決できるとは限りませんが、まずは「ちょっと話してみたい」と思ってもらえることが大切だと思っています。

相手にとって身近で、安心して声をかけられる存在であることを常に心掛けているので、「あなたにお願いしてよかった」と言ってもらえた時は、そんな自分の選択や積み重ねが間違っていなかったと実感できた瞬間でした。

起業から現在までで、ターニングポイントだったと思う場面についてお聞かせください。

起業7年目に事業を拡大し、オフィス兼アートスタジオとなる物件を借りたことが、大きなターニングポイントでした。

アートスタジオを通じて多くのお客様に足を運んでいただき、さまざまな表現や価値観に日常的に触れられる環境が生まれたことは、仕事そのものの質を大きく変えました。

私たちのスタジオは完全予約制のため、毎日営業しているわけではありません。だからこそ、営業日にたまたま店の前を通りかかり、興味を持って立ち寄ってくださった方との出会いはとても印象に残っています。

デザイン事業のみの頃は自宅でのリモートワークが中心で、人との接点が限られていました。 スタジオ事業を始めたことで人脈が自然に広がり、新たなビジネス機会にもつながっています。 実際に、リソグラフのワークショップを開催したい教育関係者やクラフトイベントのプロデューサーといった方々との偶然の出会いが、新しい仕事やプロジェクトにつながることもありました。

また、自分のスタジオを持ったことで、思い立ったときに自主制作ができるようになり、「無いなら自分で作る」という実感を得られました。 一方で、人脈や案件が増えるにつれて、契約や価格交渉、財務・事務といったデザイン以外の業務負担も増加し、すべてを一人で抱え込まず、苦手な分野は得意な人に任せることの大切さを学んだ点も、現在につながる重要な転機です。

事業を続けられる理由、青澄さんを突き動かしているものは何でしょうか?

事業を続けられる理由は、仕事というより趣味の延長として捉えている部分が大きいからだと思います。

好きなことをベースにしているため、これまで息が詰まるような瞬間や、仕事そのものをつらいと感じたことはほとんどありません。 もちろん忙しさや大変さはありますが、それも含めて楽しみながら取り組めています。 試行錯誤や大変さも苦にならず、自然と続けることができています。

自分の興味や関心から始まった活動だからこそ、前向きな気持ちで続けられているのだと思います。 「好き」という感情そのものが、今も自分を前に進ませる原動力です。

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成果より過程をアートに。表現を楽しめる場づくりと、海を越える挑戦

「これからのクリエイティブ業界がこうなってほしい」と期待されていることはありますか?

クリエイティブ業界が、成果や効率だけで評価される場ではなく、試行錯誤の過程も大切にされる環境になってほしいと感じています。 そのために、専門知識や経験の有無に関わらず、誰でもリソグラフを楽しめるスタジオを運営しています。

手を動かしながら学び、失敗も含めて表現を楽しめる場が、創作のハードルを下げると考えています。 個人の表現が無理なく続けられる土壌をつくることが、業界全体の広がりにつながるはずです。 スタジオでの体験を通して、作ることそのものの価値が見直されていくことを期待しています。

そんな試行錯誤の積み重ねを大切にするという考えを生んだきっかけや、エピソードがあれば教えていただけますか?

クリエイターとして活動する中で、必ずしも目に見える成果がすぐに得られるとは限りません。 しかし、そこに至るまでに試行錯誤した過程そのものが、自分自身の大切なスキルとして積み重なっていくと感じています。

その経験や学びが次の挑戦に活かされ、やがて新しい成果へとつながっていくのだと思います。

事業で挑戦したいことと、その挑戦の為にまず着手したいことを聞かせていただけますか?

今後は、海外のアートブックフェアへの出展に挑戦し、活動の場を国内外へ広げていきたいと考えています。

あわせて、自社出版物の拡充にも力を入れ、スタジオ発の表現や視点をより多く発信していきたいです。

日本でも海外でも、自分たちの作品や活動を届ける価値のあるイベントだと判断できるかどうかを大切にしています。 場所に関わらず、共感してもらえる場であれば積極的に参加したいと考えています。

その第一歩として、継続的に制作・発表できる体制づくりと作品ラインナップの整理から着手したいと考えています。

ありがとうございます。では、最後の質問です。 青澄さんにとって”仕事”とは、”仲間”、なんでしょうか。

仕事とは、自分の考えや価値観を社会に向けてアウトプットする機会だと思います。 仲間とは、この人となら少し大変でも一緒に進める、と自然に思える存在です。

その両方が重なることで、仕事はより前向きで意味のあるものになります。

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