AI時代だからこそ、人が考える価値を。映像に込めるのは「生のままの感覚」

AI時代だからこそ、人が考える価値を。映像に込めるのは「生のままの感覚」

Tomo Hito

2026年7月10日

一番美しい映像は、ありのままの映像なのかもしれない。そんな考えのもと、「生のままの感覚」をコンセプトに映像を制作するのが、Rawfeel株式会社だ。 フォトグラファーからキャリアをスタートさせ、台湾から日本へ渡った共同創業者のTomoさん。300店舗以上の飲食店の撮影、北海道での映像制作、ハイブランドおよび海外プロジェクト統括、そして共同創業者との出会いを経て、現在のRawfeelを立ち上げた。 彼らは、AI時代に“人が考えること”へ立ち返る。映像を始めた原点から、クライアントとの向き合い方、そして国や業界を越えて挑戦したい未来までを伺った。

台湾出身、三児の父、映像ディレクター。

自己紹介や、会社のご紹介をお願いします。

台湾出身のトモです。日本に来て10年ほどになります。まだ日本語は上手とは言えませんが、日々勉強しながら過ごしています。

三児の父で、Rawfeel株式会社という会社を経営しています。主に映像事業を軸にしていて、自身はディレクターを中心に、ときにはプロデューサーとしても活動しています。Rawfeelは、企業やブランドに関する広告映像の制作案件を最も多く手掛けています。クライアントの想いやブランドの魅力を映像で伝えることを大切にしながら、さまざまなプロジェクトに携わっています。

一方で、今後は長編ドキュメンタリーやショートフィルムなど、ストーリー性のある作品にもさらに挑戦していきます。広告映像で培った表現力を活かしながら、人や地域、文化などを深く掘り下げる映像制作にも力を入れていきたいです。

趣味は映画やドキュメンタリーを見ることです。旅行も好きですし、友人と会ったり、イベントに足を運んだりしながら、いろいろな日本の文化に触れたり、人と話したりすることを楽しんでいます。

趣味だった映像から、Rawfeelが生まれるまで

どうやって映像制作のキャリアを始めたのでしょうか?

オーストラリアで出会った妻と2015年に結婚し、同じ年に日本に移住しました。最初は映像の仕事ではなく、不動産や民泊の部屋を撮影するカメラマンとして働いていました。写真は多く撮っていましたが、映像については当時ほとんど知識がなく、趣味でGoProを使って旅行の様子を撮る程度でした。

キャリアの最初は写真からだったんですね。

そうなんです。その後、飲食系のウェブメディアに入り、マーケティングチームの一員として動画制作に関わるようになります。インバウンド向けのコンテンツ制作を担当し、レストランやシェフの撮影を中心に、京都や山形など全国各地を回りながら数多くの動画を制作しました。

2年半から3年で、300店舗ほど撮影しました。その経験を通じて、「映像もできるかもしれない」と感じるようになりました。

しかしコロナ禍の影響で会社の規模が縮小し、インバウンド需要もなくなったため、その仕事を離れることになります。その後、北海道で自治体と関わる映像制作の仕事に携わり、ディレクターとして活動しました。

北海道での経験もご自身に影響がありましたか?

はい。私は台湾出身なので、雪のある環境自体が新鮮で。もともと雪が好きだったんです。2年ほど北海道に滞在する中で、自分の映像スキルは一気に伸びました。

北海道でのあの時間に、深い感謝を捧げます。とりわけ妻と、現地で出会ったすべての人たちへ。私の映像において、物語を描くようになり、表現の領域で新たな一歩を踏み出せたのは、あの北海道の美しい景色が教えてくれたからに他なりません。だから私は、いつでも北海道へ帰りたいと強く思うのです。そこにある景色から、さらなるインスピレーションと想像の翼を受け取るために。

その後東京に戻り、映像会社に所属します。その後、現在の共同創業者と出会い、独立して一緒に会社を立ち上げることになりました。

彼のクリエイティブを見たときに、その発想力の高さにすごく惹かれて。私とは全然違うタイプの性格ですが、話していく中で感覚が合うなと思って、「一緒に何かできそうだな」と感じたのがきっかけです。

最初は趣味として映像を撮ったり、お互いにアイデアを共有したりしていましたが、私から「会社をやろう」と彼を誘い、一緒に立ち上げることになりました。

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エフェクトの時代に「加工しない映像」を大切にする

会社名の「Rawfeel」にはどんな意味が込められているのでしょうか?

「生のままの感覚」という意味を込めています。世界中の人それぞれが持っているストーリーを大切にしたくて、できるだけフィルターをかけず、純粋な状態をそのまま捉えることを重視しています。装飾や過度な演出を加えるのではなく、シンプルな表現の中にある美しさを大事にしています。

この頃はAIやエフェクトを多用した映像も増えていますが、私たちは、例えば定点の映像の中で子どもが遊んだり、家族が笑い合ったりするような、余計な加工を加えない表現に魅力を感じています。シンプルであることが、結果的に一番美しいと考えています。

普段の働き方について教えてください。

比較的規則的な生活を意識しています。6時半から7時頃に起きて子どもの朝食を準備し、保育園の送りなどを終えた後にジムに行きます。その後、1日のタスクを確認して、提案書や企画書の作成、案件の進行などに取り組みます。夕方には一度仕事を区切って、家族と過ごす時間も大切にしています。

納期ギリギリまで作業することはあまりせず、できるだけ前倒しで進めるようにしています。例えば月末納品の案件であれば、その前の週には完成させることを目標にしています。

基本的には自宅で作業をしつつ、必要に応じて現場に行くスタイルです。拠点は東京ですが、この場所を選んだ理由のひとつは、多様な人や文化と出会える環境にあることです。今使っているオフィスも、アートやイベント、人との交流が自然に生まれる場所で、そうした刺激が新しいアイデアに繋がっています。

お仕事でをする中で、意識されていることは何ですか?

相手の意見を尊重することは前提ですが、それをそのまま受け入れるだけではなく、プロとして自分たちの考えをしっかり伝えることも大切にしています。クライアントの要望に対して、「それをそのままやるのが正解」とは限らないと感じていて、私たちなりに「こちらの方がいい」と思う方向があれば、きちんと提案するようにしています。

でも、最初からスムーズに受け入れてもらえることばかりではありません。「それは難しい」「それはやりたくない」と言われることも多いです。ただ、そこで正面からぶつかるのではなく、少しずつ別の案を提示していきます。「じゃあこれはどうですか」「こういう形ならどうでしょうか」と段階的に提案していくことで、相手の中で少しずつ納得感が生まれていくことがあります。

以前、どうしてもやりたい企画があったときも、最初は周りから「危ない」「難しい」と反対されましたが、それでも諦めずに提案を重ねていく中で、最終的には実現できたことがありました。強く押し切るというよりも、少しずつ方向をずらしながら合意点を探っていくイメージです。

最初から最後までクライアントの意見だけで決まるものではなく、撮影後の構成や編集の段階では自分たちの専門性を発揮できる場面も多いです。そこで自信を持って判断し、より良いアウトプットに導いていくことがプロの役割だと考えています。

そうしたやり取りや調整の積み重ねも含めて、制作のプロセスそのものがクリエイティブだと捉えています。

Tomoさんにとって「良い仕事」とは何でしょうか。

結果よりもプロセスが重要だと考えています。仲間とともに考え、試行錯誤しながら乗り越えていく時間そのものに価値がある。作品の評価以上に、その過程でどれだけ全員が力を尽くしたかが大事だと思っています。

また、ディレクター一人で作品が成立するわけではありません。カメラマンや照明、ヘアメイク、アシスタント、そしてクライアントを含め、関わるすべての人の力があって初めて作品が完成します。作品は個人のものではなく、チーム全体のものだという意識を強く持っています。

アイデアはどのように生まれるのでしょうか。

クライアントワークに加えて、自主制作も行なっています。そちらでは自分たちで予算を出して、私たちのやりたい表現を追求しています。アイデアを形にする場として、ショートフィルムやWeb CMを制作しています。クライアントワークでは実現しづらい表現や実験的なアイデアにも、積極的に取り組んでいます。

アイデアとは、単に参考を集めて作るものではないと思っています。発想が出ないときは無理に何かを探すのではなく、一度立ち止まって休むことも大切です。日常の中でふとした瞬間に生まれる気づきや違和感を丁寧に拾い集めることで、オリジナルのアイデアに繋がります。

その考え方の根底には、どのような原体験があるのでしょうか。

私を動かしているのは、映像そのものへの興味です。幼い頃から映画に触れる環境があり、「やってみること」の大切さを教わってきました。才能があるかどうかではなく、まずは作ってみること。その積み重ねの中で可能性が広がっていくと考えています。未知の領域に挑戦し続けたいという気持ちが、今も原動力になっています。

昨今の発展が著しいAIツールについて、Tomoさんはどのように考えていますか。

AIは便利なツールではありますが、それに頼りすぎることには慎重であるべきだと感じています。さまざまな情報を集めて最適な答えを提示することはできますが、それはあくまで既存の情報の組み合わせであって、人間のようにゼロから考えるものではありません。

だからこそ、AIに答えを求めるのではなく、人と人が直接対話し、アイデアやストーリーを交換することに価値があると思っています。何でもAIに頼ってしまうと、自分の頭で考えなくなってしまう危うさもある。業界の中でも、気軽に人に相談したり、議論できるような環境が重要だと感じています。

クリエイティブは、そうした人同士のやり取りの中でこそ生まれるものだという意識を大切にしています。

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AIにできないクリエイティブとは何か。

これからの映像業界に期待していることはありますか。

AIの進化によって、制作のあり方は大きく変わっていくでしょう。これまでは編集ソフトで素材を組み合わせて映像を作っていましたが、これからはテキストを入力するだけで映像が生成されるような時代が、すぐそこまで来ていると思います。AIに対抗するのではなく、うまく使うことができるかが重要です。

ただ、その中でも私が期待しているのは、人と人がアイデアやストーリーを交換できる場の存在です。全てをAIに聞いて答えを得るのではなく、プランナーやその分野に強い人に直接相談したり、実際に会話をしながら考えていくことに価値があると思っています。オンラインでもいいですが、気軽に人に聞ける環境や、業界の中で交流できる場は、これからより重要になるはずです。

AIはあくまでツールであって、すべてを任せるものではありません。だからこそ、人と人とのやり取りの中で生まれるアイデアや発想を大切にしていきたいです。

なるほど。AIにはAIの価値が、人には人の価値があるんですね。続いて、会社としての今後の展望についても教えてください。

大きく二つの方向に取り組んでいきたいです。一つは、日本企業の海外進出や、台湾・香港など海外企業の日本進出をサポートすること。映像制作にとどまらず、コンセプト設計やブランディング、必要なコンテンツ制作まで含めて関わり、国をまたいだビジネスの橋渡しができる存在になりたいです。

もう一つは、社会的な課題に対して関わっていくことです。少子高齢化など、日本を含め世界で起きている問題に対して、映像や企画の力を使って何かしらの解決に貢献したいと考えています。例えば、将来消えてしまうかもしれない地域に対して、他の企業や企画会社と協力しながら、新しい価値を生み出すような取り組みをしていきたいと思っています。

大きな予算がなくても、社会に対してポジティブな影響を与えられることはあると考えています。映像制作会社という枠にとどまらず、より広い視点で価値を生み出していくことに挑戦していきたいと思っています。

ありがとうございます。最後に、これからこの業界を目指す人へメッセージをお願いします。

伝えたいのは、「クリエイティビティ」と「ストーリーテリング」が、ものづくりの中で一番大事な二つの要素だということです。この二つがあるからこそ、人に伝わるものが生まれ、自分自身のモチベーションにも繋がります。だからこそ、この二つは捨てずに、自分の考えとして大切に持ち続けながら、どんどんチャレンジして欲しいです。

また、安定は危ないとも感じています。ものづくりのプロセスにおいて、自分で何も考えずに流れに任せてしまうのではなく、チャレンジングな状況に身を置いて、何かを探しにいくことが大切です。その力を持って動き続けること自体が、クリエイティブだからです。

「作れそうかどうか」「才能があるか」を考える前に、まずはやってみる。幼少期に私が学んだことです。この業界に入りたい人にとって、その姿勢が一番重要だと思っています。

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