UMU Tokyo

umu(うむ)は、東京にゆかりのある国内外のクリエイターにインタビューし、そのリアルな声や生き方を日英バイリンガルで発信するインディペンデント・メディアです。

海外経験を糧に、3Dと広告デザインで挑む“残る仕事”

Yusuke

2025年9月8日

海外経験を糧に、3Dと広告デザインで挑む“残る仕事”

フリーランスのグラフィック/モーションデザイナーのYusuke。日本の小売企業での企画職、フィリピン勤務、アメリカ留学を経て2017年に独立し、いまはグローバル企業の日本向け広告やローカライズを手がけています。幼少期に母の絵から受けた影響と映画への憧れが、Blenderでの3D制作へとつながりました。目指すのは「残る仕事」。同じ志を持つ仲間とチームを組み、誰かの記憶に残るものをつくり続ける。その現実的でまっすぐなクリエイティブ観を追います。

自己紹介

自己紹介をお願いします。どんなことをされていて、これまでどんな経歴なのかを簡単に教えてください。

フリーランスのグラフィックデザイナー兼モーションデザイナーをしています。2017年に独立して、今年で8年目です。 主な仕事内容はグラフィックデザイン全般と、モーションを使った動画広告やアニメーション広告の制作です。クライアントはグローバル企業が中心で、日本市場向けのローカライズや広告素材をつくることが多いですね。

フリーランスになる前は?

それまではアメリカに留学していて、その前はフィリピンで仕事をしていました。フィリピンとアメリカでそれぞれ2年半ほど過ごしています。さらにさかのぼると、新卒で日本の会社に入って、1年半くらい働きました。業界は小売で、最終的には企画職にいて、クレジットカード関連を扱う少し特殊なポジションでした。 大学のときは芸術系の学部に行きたかったんですが、親を説得できず、つぶしの利く法学部に進みました。卒業後「自分のお金で行くなら好きなところに行っていい」と言われましたが、結局芸術系の学校には進まず、普通の大学を出ました。でも将来の夢としてデザイナーになりたい気持ちは諦められなかった。 アメリカ留学中、ビザの関係でキャンパス外で働けず、キャンパス内の仕事は給料が安かったので、オンラインで仕事を探してみたんです。「素人だけどクリエイティブの仕事をやってます」とプロフィールを出したら、思いのほか依頼が来て。カナダのBMXブランドの3Dデザイン案件も受けました。そこから縁が広がって、徐々にフリーランスの仕事が軌道に乗っていきました。

なるほど。では、ずっとデザイナーになりたかったというのは?

母が芸術系の学校を出ていて、趣味で絵を描いていたんです。その影響が大きかったですね。幼い頃からアートやデザインに触れる機会が多くて、いつか仕事にしたいと思っていました。ただ母自身が「芸術の道は厳しい」と感じていたこともあり、私には別の道を歩んでほしい気持ちがあったんだと思います。結果的に普通の大学に進みましたが、気持ちはずっと残っていました。

きっかけ

最初から、デザイナー志望だったんですか?

そうですね。子どもの頃は漫画家やイラストレーターに憧れていた時期もありました。もともとデザイン全般やアートに興味があって、その境界が曖昧なときもありましたね。だから「そういう分野に携わりたい」という気持ちはずっとあったんです。 でも「アーティスト」としてやっていくのは少し違うかなと思って。才能や経験を積み重ねてきた人たちとはベースが全然違う。自分にはそこまでの土台がないなと感じていました。 それに、やっぱり仕事としてお金を稼いでいく必要もある。そう考えたときに「デザイナー」という道が自分には現実的で合っているな、と思ったんです。

3Dはどのように始めたんですか?

振り返ると、最初に影響を受けたのは映画ですね。ピクサーやディズニーの3D作品に触れたのが大きくて、特に子どもの頃に観たティム・バートンの『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』。あれは厳密には3Dじゃなくてストップモーションですが、キャラクターや世界を立体的に表現しているのを見て、すごく惹かれました。「自分もいつかこういうものを作れたら」と思ったのがきっかけです。 ただ当時の3Dソフトはすごく高価でハードルが高かった。そんなときに、たまたま「Blender」というオープンソースの無料ソフトを知って、「無料なら損はないし、やってみよう」と始めてみたんです。タイミングよくその波に乗れたのも大きいですね。やってみたらすごく楽しくて、自分の「好き」と合致していた。それで続けていくうちに、今の趣味や仕事につながっていきました。

最初に受けた仕事、覚えていますか?

フリーランスのプラットフォーム(Upwork)で、小さなロゴの案件だったと思います。たしか「ボトルに手紙を入れて海に流す」というコンセプトのプロジェクトで、そのロゴを作った気がします。

つくる楽しさと難しさ

いろいろ3Dやモーションを手がけていますけど、ものづくりをしていて「一番楽しい瞬間」ってどんなときですか? 「これのためにやってる」と思えるような。

やっぱり多少なりとも承認欲求があるので、自分の作ったものを誰かに見てもらったり、感想をもらえたりする瞬間が好きですね。誰にも見てもらえないのは正直、自分の性格には合わない。だから「どう見てもらえるか」を考えて作品をつくっているときが一番楽しいのかなと思います。

どんな言葉をかけられると嬉しいですか?

人それぞれだから一概には言えないけど、「こういう人がいるんだ」と知ってもらえるのが一番嬉しいです。たとえば3Dも最初は趣味で始めたんですが、SNSに作品を載せていたら、それをきっかけに仕事を紹介してもらえたことがあって。人と人がつながるきっかけになるのはやっぱり嬉しいですね。

逆に、一番大変だった経験とか「もうやめたい」と思ったことはありますか?

そうですね。趣味で始めた3Dが仕事になった瞬間が一番つらかったです。チームで楽しくやっていたものが仕事になると、フィードバックや「ここを直してほしい」といったやり取りが発生する。それ自体はありがたいことなんですが、同時に「純粋にやりたいからやる」という気持ちが削がれてしまって、モチベーションが落ちるんです。 趣味のときは1年以上、ほぼ毎日のように制作していて、その熱中が仕事につながったのはすごく嬉しかった。でもいざ仕事になった途端に気持ちが冷めてしまい、「もうやめようかな」と思って手を止めた時期もありました。その揺れが、自分にとって一番大きな葛藤だったと思います。

デザインをキャリアにする上で、不安はありましたか?

ちょうどタイミングが良かったと思います。アメリカに行ったときにフリーランスを始めたんですが、アメリカって「少しでもできるならできると言え」という文化があるんですよ。そのおかげで助けられた部分が大きいですね。 もし日本にいたら「まだまだ未熟で、自分には無理です」って思い込んで、準備ばかりして結局一歩踏み出せなかったかもしれません。 アメリカでは友人からも「とりあえずやってみろ」と背中を押してもらえたので、挑戦できた。逆にあの経験がなかったら、普通に日本で就職して、かなり現実的に生きていたかもしれません。いい面も悪い面も両方ありますが。 もちろん経験が足りなかったので、最初は趣味レベルの実力でした。でも一生懸命取り組んだことで、最初のクライアントにも評価してもらえた。そういうところで人間性も見てもらえたのかなと思います。

クライアントとの関わりで、大事にしていることはありますか?

やっぱり「ちゃんと話すこと」が一番大事だと思っています。クライアント自身も、実はまだ答えを持っていないことが多いんですよ。だから対話を重ねながら「本当に求めているものは何か」を一緒に引き出していく。 そこに真摯に向き合うことが、何より大切だと考えています。

価値観の定義

あなたにとって、これまでの創作活動は人生にどんな影響を与えましたか? クリエイティブな仕事を始める前と後で、どう変わりましたか?

そうですね。私はデザイナーである一方で、趣味でもものづくりをしています。その2つはやっぱり性質が違うなと思っていて。 デザインはあくまでクライアントがいて、課題解決のためにやるもの。最終的なゴールは「クライアントをハッピーにすること」だと思っています。普段の仕事では、相手の課題をデザインを通じて解決できるように意識しています。これはどんな職業でも共通していると思います。 一方で趣味のものづくりには、明確なゴールがありません。つくったものが本当に使われるか、興味を持ってもらえるかも分からない。むしろ「人と人をつなぐきっかけ」になることが多いと思います。 たとえば以前シルバージュエリーを作っていたんですが、それも趣味から始めたものでした。作品を見てもらうことで「こういうこともやってるんだ」と知ってもらえたり、「シルバージュエリーいいね」と会話が広がったりしたんです。 そういう意味で、趣味のものづくりはコミュニケーションのツールとして機能してくれる。そこがすごくいいなと思います。

日本や東京への想い

次の質問なんですが、「umu」は“東京”を掲げているので伺いたいです。あなたにとって東京はどんな場所ですか?

そうですね。いろんな最先端が行き交う場所だと思います。トレンドが生まれる場所であり、世界が注目する場所。情報もすごく近い距離にある、そんなイメージです。 子どもの頃は田舎に行くと「何もないな、早く東京に戻りたい」と思っていたくらい。東京が大好きでした。でも大人になると少し逆で、人が多くて情報も多い東京から離れたいときもあるんです。田舎に行くと気持ちが落ち着いて、自然の良さを感じられる。東京と田舎、両方を体験できるのが日本の良さだと思います。だから今でも東京は好きですが、田舎の魅力も同じくらい感じますね。

これからの道のり

今後、達成したいことや目標はありますか?

チームを作りたいと思っています。フリーランスとして活動していると、どうしても一人で完結することが多いんですが、一人でできることには限界がある。もっと規模の大きい仕事に取り組むためにも、協業できるチームを組みたいです。 もちろん規模の大きい仕事をするためもありますが、それだけじゃなくて。同じ野心やモチベーションを持った人たちと一緒にいると、自分にとってすごく励みになるんです。常に自分自身を高いモチベーションで保つためにも、そして長期的に活動を続けるためにも、チームは欠かせない存在だと思います。だから今後は、志を共有できる仲間とチームを作っていきたいですね。

その“野心”って具体的にどんな思いなんですか?

少し遡りますが、大学のとき新卒で受けた会社の最終面接が、大成建設だったんです。スーパーゼネコンで、空港やダムのような大規模な建築を手がける会社ですね。そこのメッセージが「地図に残る仕事をしよう」だったんです。 “地図に残る”ってつまり、自分がいなくなっても社会に残り続ける仕事をする、ということ。スケールが大きくて、すごくかっこいいなと思ったのを覚えています。 自分の作品が世の中に出るのはもちろん嬉しいんですが、今の消費スピードはとても速い。気づいたら流されてしまう。だから少しでも人の記憶に残るような仕事をしたいと思っています。正直に言えば、フリーランスを始めて8年経ちますが、まだそういう実感を得られていない。これからの目標ですね。

理想のお仕事ってありますか?

そうですね。具体的な案件というよりも、ちゃんと自分の名前が刻まれるような仕事をしたいんです。友人が映画制作会社に就職したんですが、彼が関わった映画のエンドロールに名前が出てきたんです。それを見て「めちゃくちゃかっこいいな」と思いました。そこまで大規模でなくてもいいけれど、自分が制作メンバーの一人として名を連ねられる。そういう形で証を残したいですね。今はNDAの関係で名前が出ない仕事も多いですが、「自分が確かに関わった」と示せるものを残していきたいと思っています。

Yusukeさんは、独学で自分の力でキャリアを切り開いてきた印象があります。スキルを磨いたり、経験を積むためにどんなふうに学ぶんですか?

そうですね。自分の中で一つのポリシーがあって、「自己投資にはお金を惜しまない」ということです。例えばPCやツールはできるだけ良いものを揃える。学ぶときも無料の教材ではなく、業界の第一線で活躍している人や実務経験のある人の有料コースを購入して学ぶ。そういうところにきちんとお金をかけてきました。 だから「独学」とはいえ、完全に独学というよりは、自己投資を通して実務に近い知識やスキルを積み上げてきた感じですね。

なるほど。学校に通わずとも、ツールや教材を駆使して学んできたんですね。今は無料で学べるものも多いですが、そこを見極めているわけですね。 逆に、お金をかけないようにしていることはありますか? 「ここはシビアに節約する」という部分とか。

うーん…自己投資には惜しまないんですが、その分、友達関係が希薄になってしまうことはあります。例えば「飲みに行こう」と誘われても、勉強や制作に没頭したくてそちらを優先してしまう。 それが正解かはわかりません。正直、失敗談でもあり成功談でもあると思います。そういうことを繰り返すうちに、遊びに誘われなくなったりすることもありましたから。

でも、それだけ集中できたからこそ、ここまでの人生を築いてこられたんだと思います。誰にでもできることじゃないですよね。

そう言ってもらえると嬉しいです。でも最終的にはやっぱり人間関係が大事だと思います。どんなにスキルを持っていても、人とのつながりがなければ意味がなくなってしまう。そこは少し反省している部分でもありますね。結局は“バランス”。これが一番大切だと思っています。

本当にそうですね。 では次の質問です。大きな目標に向かって、一歩一歩進むために意識していることはありますか?

そうですね。大きな目標に向けては、まずマイルストーンを立てます。「いついつまでにこれをやってみたい」という大きめのステップを決めて、その後さらに細分化する。例えばゴールが10個あるなら、まずその10個を決めて、それぞれをさらに小さな行動に落とし込むんです。 3Dを例にすると、やりたい作品をつくるために必要な要素――モデリング、レンダリング、ライティングなどがありますよね。そのひとつひとつをマイルストーンに設定して、順番に学んでいく。そうやって日々の行動につなげています。

独学でキャリアを築いてきた中で、いろんな場面で判断を迫られたことも多いと思います。リスクを取るか取らないか、怖いけどやってみるか…そんなターニングポイントで、どうやって判断されますか?

ケースバイケースですが、リスク許容度で考えることが多いです。たとえば納期が短すぎて100%のクオリティを出せないと分かっているなら、受けない方がいい。逆に初めての分野でも、クライアントが「ぜひ挑戦してみて」と歓迎してくれる環境なら、思い切って飛び込みます。だから「初めてだからやらない」ということはなくて、リスクの大きさを見て判断しますね。 私はかなり現実的です。最終的なゴールは自分が満足することじゃなくて、お客さんを喜ばせること。自分より適任の人がいれば、その人に仕事を渡した方がいいと思っています。その方がお客さんのためになりますから。

つまり、自分の利益にならなくても、お客さんが満足する選択を優先するということですね。

そうです。自分が「できるかできないか微妙」な状態で飛び込んでも、結局誰もハッピーにならない。たとえば50%くらいの自信しかないなら、やらない方がいい。30%くらいの自信しかないなら、もう他の人にお願いした方が絶対にいい。そういう見極めは大事にしています。

落ち込んだときや、やりきれないときはどうやって立て直しますか?

そういうときは散歩に出ます。デスクワークなので座りっぱなしの時間が多いんですが、机に座って考えても解決しないことってありますよね。天気が良ければ外に出て歩く。体を動かすと気分も変わるし、作業環境から離れることで頭もリセットできます。気分転換は本当に大事だと思います。

なるほど。では、モチベーションを維持するために心がけていることはありますか?

あります。まず、好きな作家やデザイナーの作品を見ること。それからPinterestですね。自分が「かっこいい」と思った作品をどんどんピンして、ボードにまとめています。そうやって“好き”を自分の中に溜めておく。落ち込んだときに見返すというより、常に自分のモチベーションの燃料になるようなものを集めています。 もちろん、モチベーションが下がることもあります。特に「やりたいこと」と「やるべきこと」がズレてしまったとき。趣味で始めた3Dも、仕事になった瞬間に気持ちが冷めてしまった時期がありましたから。やりたいこととやるべきことが重なるのが理想ですよね。

以前「アーティストへの憧れもある」とおっしゃっていましたが、その気持ちについてはどうですか?

そうですね。正直、自分はアーティスト向きじゃないのかなと思うことがあります。アーティストって多分、戦略とか損得勘定をあまり考えずに、自分がやりたいことをやりたいようにやる。その結果としてファンやお客さんがついていく、という感じだと思っているんです。 でも自分はつい「これをやったら売れるかな」とか「次はどこで発表したらいいかな」と考えてしまう。そういう性格だから、アーティストとしての“純粋さ”には欠けるのかもしれません。計画ばかり立てるアーティストって、あんまりかっこよくないなって思うこともあって(笑)。だから向いてないのかなと感じるときもあります。

届けたいメッセージ

最後の質問です。クリエイティブを始めようとしている過去の自分に伝えるとしたら、何を言いたいですか?

そうですね。「人生は一度きりだから、やりたいことがあるならリスクを取って挑戦した方がいい」と伝えたいです。やって後悔するのと、やらずに後悔するのは全然違う。やってみて後悔したとしても、それは経験になるから。周りが何を言おうと、自分でやってみて判断すればいいと思います。 8年前の自分は、今の自分を想像していなかったでしょうけど、挑戦してよかったと思います。

では最後に、世界に向けて伝えたいことがあればお願いします。

「徳を積むこと」ですね。偽善的に聞こえるかもしれませんが、自分が正しいと思うことを日々やり続けること。それが自分の性格や環境、人との関わり方、誰と一緒に仕事をするかにもつながっていくと思います。小さな積み重ねが大事だと信じています。

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