UMU Tokyo

umu(うむ)は、東京にゆかりのある国内外のクリエイターにインタビューし、そのリアルな声や生き方を日英バイリンガルで発信するインディペンデント・メディアです。

iPhoneケースからアートとデザインへ。色で紡ぐクリエイティブな旅

Rui

2025年10月3日

iPhoneケースからアートとデザインへ。色で紡ぐクリエイティブな旅

群馬出身で、大学卒業後にカナダへ渡った経験を持つRui。iPhoneケースに絵を描いたことをきっかけに口コミで広がり、そこからクリエイターとしての人生が始まりました。アーティストとデザイナーの間を行き来するように、オーダーに応えながらも自分らしい色彩と筆のタッチを重ねていく作品は、どれも彼女ならではの表現です。制作の喜びと苦しさを抱えながら、自分の“生きやすい道”を探し続ける彼女のストーリーを追います。

自己紹介

まずは自己紹介をお願いしてもいいでしょうか?

1995年生まれで、群馬県出身です。高校までは群馬の学校に通っていて、大学から東京に出て語学系の学校に進学しました。4年間大学に通い、卒業してすぐにワーキングホリデーでカナダへ1年間行っていました。 活動は、iPhoneケースに絵を描き始めたことがきっかけです。それを友達にプレゼントしたら喜んでくれて、口コミで「私も欲しい!」と言ってくれる人が増えて、みんながインスタに載せてくれて。そこから少しずつ広がっていったのが、私にとっての“クリエイター人生の始まり”でした。

今されている活動については、どういう肩書きで表現されていますか?

それがすごく難しくて、私自身も「何者なんだろう」と悩んでいるところなんです。アーティストとデザイナーの間みたいな存在なのかな、と。 アーティストなら自分の好きなものを生み出して、それを販売して…というイメージがありますよね。一方デザイナーは、誰かの依頼や指示を受けて形にする、という印象があって。私はどちらもやっていて。オーダーを受けて「こんな作品が欲しい」と言われれば描きますし、iPhoneケースもそうやって作ってお渡ししてきました。だから肩書きは今も模索中です。

実際に手がけている作品について教えていただけますか?

大きく分けると二つあります。ひとつはiPhoneケースに絵を描くこと。オーダーの際は、任意ですがお客様の性格を伺っています。そこで私の思い描いたイメージのまま筆をとり、制作を進めます。最近では、写真や色のイメージを送ってもらい、その雰囲気を汲み取り制作することも増えました。 もうひとつはキャンバス作品です。キャンバスは、実際に制作に入る前に、お客さんと入念な打ち合わせを行います。どのような雰囲気の作品をイメージしているのか、インテリアに合わせた雰囲気のものがいいのか、など。また、その人の人生についてヒアリングし、”その人自身”を投影した唯一無二の作品の制作も行なっています。実はこれがとっても楽しくて。お客様自身のことも深く知れますし、何よりその瞬間に相手との深い繋がりを感じることができる。一連の制作行程の中で、とてもワクワクする時間ですね。 加えて、最近はステッカーにするイラストの依頼を頼まれたり、結婚式のウェルカムボードの受注も増えてきました。ウェルカムボードはキャンバス作品と違って、透明なアクリルボードに描いています。

リクエストを受けつつも、Ruiさんらしさが作品にしっかり表れていますよね。

そうですね。絵=紙のイメージが強いかと思いますが、紙に限らず、いろいろな素材に描いてきました。グラスとかワインボトルとか。言葉では説明しづらいので、実物を見てもらう方が早いかもしれません(笑)。

きっかけ

どうやって今のような表現にたどり着いたのですか?

もともとカラフルなものが好きだったのと、物心ついた頃から人と同じものを持ちたくない、という気持ちが強くありました。自分で作れば誰ともかぶらないじゃん!と気付いてからは、とりあえず作れそうなものは自分で一回作ってみる。そこで身近にあったのが、iPhoneケースでした。当時、イラストを描くのは苦手だったので、家にあった絵の具を使って気の赴くままに色をのせました。それが、今の抽象的なスタイルになったきっかけかなと。 それからはPinterestで世界中の作品を見たり、カナダにいたときは美術館やギャラリーがとても身近で、無料で入れる場所も多くて、そういう作品にときめく自分がいて、「私はやっぱりこういうものが好きなんだ」と、どんどん気付いていきました。 実は、小学生の頃から書道を習っていて、高校では書道部に所属していました。なので、その頃から芸術に少し足を踏み入れていた感覚はあって。私の作品に’’和”を感じるって言ってもらえることも多いんですけど、それはきっとここからきているのかもしません。

なるほど。書道の経験があると聞いて納得しました。筆のタッチや曲線にその面影を感じました。

やっぱり書の感覚が残っているのかもしれません。そこに“カラフル好き”という自分の個性が重なって、今のスタイルにつながっているのかなと思います。

最初に友達へプレゼントした作品は、どんなエピソードがあったか覚えていますか?

大学4年生のとき、カナダに行く前に、DIYで制作したiPhoneケースをインスタに載せたんです。今の作風とは少し違ったんですけど、その時に欲しいと言ってくれた友達のために作っていました。 でも、卒業後すぐにカナダに行くことが決まっていたので、一旦オーダーはストップしたんです。だからそれはカウントしないというか、助走期間みたいな感じですね。 そのあと、カナダに行って数ヶ月経ったころ、日本の友達がたまたまルームメイトになって。その子にこのことを話したら「誕生日プレゼントに作ってほしい!」と頼まれて。そこで作ったのが、今の作風に近づいた最初の作品でした。その作品を、インスタに載せたのが、本格的なクリエイター活動の始まりだったと思います。

そのときはどんな気持ちで描いていましたか?やっぱり彼女のことを思い浮かべながら?

はい。私の作風は最初から変わっていなくて、その人の性格や人柄を作品に落とし込むスタイルなんです。その子は、見た目はおとなしそうなのにとっても面白くて明るくて、教養があって優しくて。何より、包容力の塊で。そんなイメージで制作しました。7年経った今でもとっても仲良しで、わざわざ私の地元まで会いに来てくれる、大事な友達です。

全く知らない人からの依頼はどんなふうに対応しているんですか?

前述したように、知らない方からの依頼の場合は「あなたの性格を教えてください」と聞いています。加えて好みの色や好みの過去の作品を伺って、パステル系やビビッド系などリクエストがあれば取り入れます。友達からは「おまかせで」と言われることが多いので、その場合は私がイメージしたその人らしさを作品に落とし込む感じですね。

今までに「難しいオーダーだな」と感じた依頼はありましたか?

キャンバスアートの依頼で本当に難しかったものがありました。「円をモチーフにして、温かくて壮大で、強い雰囲気のもので。」さらに、色は7色の指定がありました。そのときは、「どうしよう!」と頭抱えましたね(笑)。。でも、実際に筆をとり制作を進めていくと、どんどんイメージのピースがハマっていく感覚があって。所謂、ゾーンってやつですかね、”見える”んですよね。直しがきかない一発勝負なのでかなり緊張しましたが、そのオーダーのおかげで自分の伸びしろを少し埋められた気がします。一皮剥けたというか。踏ん張って仕上げた経験は、今でも自分の糧になっていますし、自信にも繋がります。同時に、私はお客様に成長させてもらっているんだな、と気づきましたね。

つくる楽しさと難しさ

ものづくりをしていて、一番幸せだと感じる瞬間はいつですか?

一番幸せなのは、やっぱり作品をお渡しして、納品したあとにお客さんから感想をいただくときですね。その瞬間に初めて、ひとつの制作活動が完結するというか。 コメントをもらったときに、それまでの苦労やストレス、向き合ってきた苦しい時間が全部消化されるんです。「めっちゃかわいいです!」とか「泣きました!」とか言っていただけると、本当にやっていてよかったと思うし、大袈裟かもしれないですが、「生きててよかった〜」と心から思えます。

先ほど難しかったオーダーについてのお話も伺いましたが、制作の中で「苦しい」と感じることも多いですか?

多いですね。実は大半の時間が苦しいです(笑)。でも、お客様からの嬉しいコメントがあるからここまで続けられているんです。、スポーツに近い感覚かもしれません。練習ってきついけど、試合に勝ったときに全てが報われるような、その感覚に似ている気がします。 作品づくりも一発勝負で、お金も発生しているので、常に緊張感を持って向き合っています。信頼してオーダーいただいているからこそ、絶対に応えないといけない。そのプレッシャーでずっと苦しいです。 でも、まず作品が完成して自分が100%納得できるものができたときに、少し肩の力が抜けます。ただ、それでも不安と緊張感は続きます。納品して、お客さんからのコメントをいただくまでは。「大丈夫だったかな?」って。 事前に作品の写真などを渡すスタイルではなく、作品をそのままお送りし、開けて初めて完成品を見ていただく、という形なので、納品の瞬間まで本当にドキドキです。 だから全体の90〜95%は苦しい時間。でも最後の5〜10%の喜びがすべてを巻き返してくれるんです。好きだからこそ苦しいし、妥協ができないんです。でもその後の達成感も知っている。だからこそ、やめられない。

価値観の定義

あなたにとって、いま取り組んでいるものづくりとはなんですか?

確実に言えるのは、「生きる価値を見出せること」です。私のつくったものを誰かが喜んでくれて、求めてくれる瞬間に、生きている意味や実感が湧きます。 私、こう見えて結構悩みやすくて、調子が落ちると自己否定に陥りがちなんです。少しでもできないことがあると「自分はダメだ」と自分を責めてしまうこともある。でも、そんなときでも「私にはこれがある」と思えるのが、この活動です。 今はまだこの活動一本で生計を立てられているわけではありません。けれど、コンスタントにご依頼をいただけるという事実は、価値を見出してもらえている証拠だと感じています。だからこそ、「やっぱり私にはこれがある」と思えるし、ゆくゆくはこの活動だけで生活できるようになりたいと思っています。

制作の活動が今では人生の大きな部分を占めていると思いますが、もしそれに出会っていなかったら、どんなことをしていたと思いますか?

高校生の頃、英語もすごく好きだったので、大学も語学系の学校に進学しました。大学3年くらいになると就職のことを考え始めますよね。その時は漠然と「英語の先生になりたい」と思っていました。 ワーホリに行ったのも、大学時代に留学できなかったからなんです。なので卒業してからカナダで働きながら、、英語を教える資格を取ろうと思ったのですが、諸事情あって学校に入学できなくて…。どうしようと思ったときに、並行してやっていた制作活動の話を友達にしたら、そっちが少し軌道に乗ったんです。それで、ここまで続けてこられた。だからもし作品作りに今ほどフォーカスしていなければ、教育の道に進んでいたんじゃないかなと思います。

日本や東京への想い

留依さんにとって東京はどんな場所ですか?

一言で表すのは難しいけど、今の私にとって東京は「大きな壁」です。実は今、諸事情あって一時的に群馬に戻ってきているんですけど、それは、その大きな壁に当たって砕けてしまったから。いわゆる挫折ですね。東京は大好きです。でもそこで生き抜くには常に努力しなきゃいけない。独特の世界だと感じています。 本当は20代のうちに、爪痕を残しながら、その大きな壁を乗り越えたかった。カナダから帰ってきて約7年間、がむしゃらにその壁をよじ登ろうと頑張ってきたつもりだったのですが、今はちょっと休憩中。「実力不足だったのかな」とリアルに感じさせられるのが東京です。

これからの道のり

夢やこれからの目標はありますか?

実は、最後にワーホリにもう一度行きたいと思ってるんです。高校生のときに短期留学でオーストラリアに三週間滞在したことがあるんですけど、そこで出会ったホストファミリーと今も連絡を取り合っていて。その家族との出会いが、私の人生観を大きく変えてくれたんです。でも、ちゃんと「ここまで成長したよ、ありがとう」と直接英語で感謝を伝えられていないままで…。だからもう一度オーストラリアに行きたい。 そこで、個展なんて開いてみちゃったりなんかして。夢のまた夢ですが、自分の作品が外国の人に受け入れられたり、売れたりしたら、もうそれだけで本望!満たされて「もう他には何もいらない」と思えるんじゃないかな、なんて。 それほどとっても大きな夢ですが、いつまでも挑戦している自分でいたいですね。

最高ですね!本当に素敵です。実は私も夢は「オーストラリアに戻って仕事をすること」で、ずっとそう思っていて。ぜひ叶えてほしいです。今のお話を聞いて、私も改めて「自分の心がわくわくする方向に進むべきだな」と感じました。

そうそう、話しているだけでわくわくするってことは、きっと心が求めている道なんですよね。

スキルアップのための学び方についても伺いたいです。表現や技術を磨くために、どうやって経験を積んでいますか?

とにかくいろんな作品を見て、実際に自分でやってみること。抽象画家の動画やYouTubeで画材を紹介している人の内容を参考にして、「ここではこういう画材を使うんだ」と気づいたら試してみる。作ってみるなかで自分の中にデータを蓄積していく感じですね。

画材を買うのって、ハードルが高く感じる人も多いと思います。最初に一式そろえるのは負担でしたか?

正直、高いハードルでした。安いものではないですし、未だに生活費を削ってそっちに充てています。他の仕事をしていても、生活と制作活動との両立がかなり難しくて、、十分な資金を画材に回せない、という負のループにはまったこともあります。だからこそ、買うときはよく考えるし、絶対に無駄にしないと決めています。

挑戦やリスクがある場面で、やってみるかををどう決めていますか?一歩を踏み出す基準をお聞きしたいです。

やはり周りと比べると金銭的にも精神的にも余裕がない時期もあります。でも、会社員として社会に属していることが、自分を生きづらくさせていることも経験上分かっています。だから、最終的には「私はこっちで生きる」と決めました。たくさん自分と対話して、自己分析をした時に、もはや「やる・やらない」ではなく「わたしに残された道はこれしかない」という感覚に近いと気づきました。たくさんの葛藤の中で約7年間制作を続けてこれたという実績が、この自信につながっていますし、作品をお渡しした後にいただくコメントが、私の財産であり、何より生きがいなんです。。なので、だから、稼ぎが多かろうが少なかろうが、あの”達成感”を知っているからこそ、どんなに悩んでも結局ここに戻って来てしまう、そんな感じです。

届けたいメッセージ

最後に、過去の自分にかけたい言葉はありますか?

私は昔から悩みやすい性格で、常に選択肢を天秤にかけてその先の選択まで考えて、不安を一つずつ潰したいタイプでした。結果として大きな後悔はしていないけれど、「考えすぎなくても、きっと直感に従えば辿り着く未来は同じ」と今は思っています。 だから、過去の自分にも今の自分にも言いたいのは、考えすぎず、時には感じるままに動いていいということです。悩むのはいいけれど、寝られなくなるほどは抱えない。ある程度手放す。自然な気持ちの流れに任せる勇気も、ときには大事だなと。

umuの読者や同じ道を目指す人へ、締めのメッセージをぜひお願いします。

私はまだ夢の途中で、偉そうなことは言えません。でも「自分が生きやすい道」は、必ずあると思っています。勇気さえ持てば、きっと見えてくる景色は変わる。自分で自分のレールを敷く勇気と、自分が自分の一番の味方でいる勇気です。社会的な評価がどうであれ、自分が一番わかっていると思うんです。何を求めているのかを。 タイミングも、叶うまでの時間も、人それぞれ。私はまだ叶えきれていない。けれど、情熱が消えない限り、需要がある限り、続けることをやめなければ、その敷いたレールが自分の本当に生きやすい世界へ連れていってくれると信じています。人と違うことは、時に痛みを伴いますが、その分人より”カラフルな人生”を生きているんだなと思って、めげずに自分を追求していきましょう!

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