Moondahliaは、東京を拠点に活動するインストゥルメンタル・バンドです。 出身地もキャリアも異なる二人のミュージシャンが、それぞれの道を歩んだ末に日本で出会い、音楽的なシナジーを見つけました。 フロリダ州オーランド出身のNayokenzaは、ラップやポストハードコア・バンドでの活動を経て、10年近く東京のクラブでDJとして経験を積みました。その後、パンデミックを機に音楽制作にフォーカスしています。一方、フランス南部ニース出身のLucasは、パンクからメタル、ジャズまで幅広いジャンルを独学で学んできたベーシストで、演奏歴は20年近くに及びます。 二人は音楽以外の仕事や生活を持ちながらも、東京の音楽シーンの中で共通点を見出し、共に作品を作り上げています。Moondahliaの物語は、創造への情熱だけでなく、日々の現実と向き合いながら音楽を続けるアーティストとしてのリアルを映し出しています。
自己紹介
自己紹介をお願いします。出身やご自身について少し教えてください。
Nayokenza: 僕たちはMoondahliaというインストゥルメンタル・バンドです。僕たちは二人とも日本人ではないので、「日本出身」と言うのは少し不思議な感じがしますが、このプロジェクトは完全に東京と結びついているんです。東京じゃなければ僕とルーカスは出会わなかったですし、東京の音楽シーンがなければ、これまでとこれほど違う音楽をやろうなんて思わなかったと感じています。なので、僕たちは「東京を拠点とするバンド」だと考えています。 僕はフロリダ州オーランド出身で、バンドではプロデュース、ドラム、メロディックなバックグラウンド、サンプルやレイヤリングを担当しています。子どもの頃は兄弟たちとギターを弾いていましたが、正直あんまり上手じゃなかったです。それから14歳くらいのときにラップを始め、同時にサンプラーや音の操作にもハマりました。その後、長い間ポストハードコアやスクリーモのプロジェクトをやっていました。でもそもそもは、自分のイメージする音楽をやりたいと思っても一緒にやれる仲間が見つからなかったので、一人でプロデュースを始めたんです。それからはTrump RoomやBeat Caféといった東京のクラブでDJをするようになりました。でもパンデミックをきっかけにDJはやめて、制作に専念するようになりました。 Lucas: 僕はルーカスで、ベースを担当しています。出身はフランス南部のニースです。完全に独学でベースを弾き始めてから19年になります。これまでパンクから始まり、メタル、ジャズ、ファンク、ヒップホップといった様々なジャンルを通ってきました。日本には9年前に妻と一緒に来て、今は息子と3人で暮らしています。 僕にとってベースはずっと自己表現の手段でした。Moondahliaでは、今までやってきたメタルやファンク、ジャズなど、全部のジャンルの要素を取り入れることができるんです。それがすごく面白くて、今まで積み重ねてきたことが全部活きる場所があるのが、すごく嬉しいです。
きっかけ
Moondahliaはどのように始まったのですか?
Lucas: 僕はこれまでドラムやボーカル、ギター、キーボードといった、いわゆる「バンド編成」で音楽をやってきていて、DJやプロデューサーと一緒に制作をしたことは一度もありませんでした。Nayoとは、以前同じ会社で働いていたときに出会いました。 パンデミックの時期にCloud Engineerというソロプロジェクトを立ち上げ、自分でビートを制作し、それに合わせてベースを弾きながらアルバムもいくつかリリースしました。しかし、制作を続ける中で次第に孤独を強く感じるようになったんです。作品を仕上げても判断するのは常に自分ひとりで、「これは良い」「これは微妙」と意見をくれる存在がいない。そのとき、自分の音楽を理解し、新しい価値を加えてくれるパートナーが必要だと強く思うようになりました。そこで昨年、Nayoに「一緒に何かやらないか」と声をかけたんです。 Nayokenza: 最初のころは、時期によってはボーカルやギターのメンバーもいたんです。最初のことは「The View at Midnight」という名のもと活動していました。Tiger LilyやCandle and Flameはボーカル入りでレコーディングしていたのですが、プレイリストやブログに楽曲を紹介した際、いつも同じような反応が返ってきたんです。「曲は素晴らしいけど、ボーカルは微妙かも」というような声でした。それが、ボーカルをやめてプロダクションに専念しようと決断するきっかけになりました。「自分は歌う必要はない」と気づいたんです。 そこからインストバンドとして活動することを決めて、新しいバンド名を考えました。そのときは短期間でとにかく数え切れないほどの候補を出しました。その中のひとつが「Moondahlia」で、二人とも「これだ」と直感的にしっくりきました。 Lucas: この名前は日本語でも馴染みやすかったんです。以前の名前はカタカナで表記するとすごく発音しにくかったけど、「Moondahlia」は覚えやすく、響きもよくて、視覚的にも魅力的でした。「月の中に咲く花」というシンプルながら印象的なモチーフを軸に、ロゴやビジュアルコンセプトを形作りました。
つくる楽しさと難しさ
Moondahliaを始めてから、最も嬉しかった瞬間は何ですか?
Lucas: 最近、ライブパフォーマンスのセットをレコーディングしたんですが、そのとき初めて「やっと形になってきたな」と実感しました。でも一番嬉しかったのは、新しいエンジニアのサイモンと仕事を始めたときです。彼は僕たちの求めているサウンドを理解しようと、丁寧に耳を傾けてくれました。僕のベーススタイルは伝統的なカテゴリーには収まりきらない部分がありますが、それこそが自分らしさであり、あえてそういう音を目指していると伝えたんです。サイモンはその個性を尊重したうえで仕上げてくれて、彼がマスタリングしたトラックを初めて聴いたとき、「これだ!これが僕たちのサウンドだ!」と心から思いました。19年間バンドをやってきて、初めて「自分たちの音はこうあるべきだ」と納得できた瞬間でした。 Nayokenza: 僕にとって一番の喜びは、海外のリスナーが自分たちの音楽を聴いてくれていると実感したことです。そのきっかけになったのが「Almaty Afterglow」の制作でした。昨年、僕はカザフスタンの文化や歴史を深く調べ、ソ連統治時代から独立、そして今の国際的で活気ある都市の姿まで、その変化を音で表現したいと思ったんです。リリースの際には映像付きのMP4を制作し、アルマトイやアスタナ、そしてカザフスタン全体をターゲットに広告を出したところ、制作中に思い描いていたまさにその土地のリスナーが実際に曲を聴いてくれました。毎朝そこからの再生数が増えていくのを見るたびに、今でも夢のような気持ちになります。だからこそ僕は音楽を作り続けているんです。
苦労したことは何ですか?
Lucas: サイモンと出会う前、別のエンジニアに曲のマスタリングを依頼したことがありました。最初の2曲はそれなりに仕上がったんですが、次の2曲はひどいものでした。音は過剰に圧縮され、ベースのリズムもズレてしまい、まるで別の曲のようだったんです。自分の曲がプロの手で磨かれるのを楽しみにしていたのに、耳にしたのはまったく認識できないほど崩れたサウンドで、本当にショックでした。修正を依頼したのですが、彼は手を引いてしまい、報酬だけ返して終わってしまったんです。あのときはとても辛かったですね。 Nayokenza: そのとき台無しにされた曲のひとつが「Figure 8」で、アルバム全体を優しく閉じる最後の一曲にしたかったんです。本当に悔しかったですね。とはいえ僕はエンジニアではありませんし、やりたいのは音楽を作ることであって技術的な修正に悩むことではありません。ですので、マスタリングを自分でやろうとは思わなかったんです。 その経験で自信をなくした瞬間もありました。「もしかしてファイルの渡し方が悪かったのか?自分のせいだったのか?」と自分を疑ったりもしました。でも同時に、音楽を誰かに託すとき、その人をどれだけ信頼できるかがどれほど大切かを痛感しました。
価値観の定義
あなたにとって音楽とは何ですか?
Nayokenza: 僕にとってクリエイティビティは、ほとんどスピリチュアルな感覚に近いものです。どこか遠くから授かった贈り物のようで、それが自分の中に流れ込み、音となってまた外に流れ出ていく。制作中にビートやテクスチャーを重ねているとき、僕はただの「器」のような感覚になるんです。自分だけではなく、もっと大きな何かが自分を通して動いているように感じる。そして、それこそが人とつながる方法なんだと思います。 僕はもともと少しシャイで、人付き合いが得意なタイプではありません。大人数の場で積極的に振る舞ったり、誰とでも気さくに話せるタイプではないと気づきました。何度も試してみましたが、僕らしくなかったんです。でも、音楽は作れる。「これを作ったよ。よかったら聴いて、あなたの生活の一部にしてほしい。」そうやって音楽を通して何かを与えたり、人とつながったりできる。僕にとって音楽とはまさにそういうものです。人とのつながり、そしてこの宇宙とのつながりなんです。 Lucas: 僕の考え方は少し違います。僕にとって音楽は、自分が一番自然体でいられる場所です。もし10人の前でスピーチしろと言われたら、僕はぎこちなくなってしまいますが、200人の前でベースを持ってステージに立てば、完全にホームにいるような気持ちになります。運命だとか使命だとか、そういうことではなく、純粋に「生きている」と実感できるんです。 音楽をキャリアとか情熱、天職と表現する人もいますが、僕にとってはもっとシンプルです。自分の肌にしっくり馴染むものなんです。古い革のジャケットみたいに、着慣れていて、もう形もついていて、ずっと着ていても飽きない。僕にとって音楽はそんな存在で、つまり、人生そのものなんです。
日本や東京への想い
東京での生活は、音楽や人生にどんな影響を与えましたか?
Nayokenza: 正直に言うと、僕は10歳の頃からずっと東京に住みたいと思っていました。いとこが東京に住んでいて、それが僕にとって大きな憧れになったんです。ラップも、楽曲制作も、DJも、すべてはここに来るための道のりだったような気がします。初めてクラブでDJをしたのも東京で、本格的に制作を学んだのも東京。大人になるまでのすべての時間をここで過ごしました。2008年から東京にいるので、もう僕の大人としての人生のほとんどはこの街にあります。 そして、東京には本当にたくさんの恩を感じています。東京は僕に「自分らしくいていい」という自由を与えてくれました。初めて、「正しいか間違っているか」を気にせずに創作できるようになった場所が東京なんです。 Lucas: 僕にとって東京は、もともと頭の中で描いていた「国際的で巨大な都市」というイメージでした。高層ビルが立ち並び、人々が絶え間なく行き交う街でした。でも江戸川に住んでみたらまったく違った世界が広がっていました。下町らしいコミュニティがあって、静かで、人々が顔見知り同士で暮らしている。8年間ここに住んでみて、こんなふうに自分の居場所と感じられるとは思いませんでした。 引っ越してくる前は、渋谷は眠らない街で、どの時間帯も人が溢れていると思っていました。でも実際は東京にも静けさがありますよね。夜の都心を歩くと、誰もいないことだってある。そのギャップは驚きでした。でもそのバランスこそが魅力的です。便利で何でもそろう都会なのに、人の優しさがしっかり息づいていると思います。 Nayokenza: ナイトライフの文化も興味深いです。コロナ前は渋谷や代官山、表参道で毎晩のように出かけていましたが、パンデミックを経て街の様子は大きく変わりました。多くのクラブは閉店し、音楽の場も静まり返ってしまいました。でも、人々が賑やかなことをしなくなったわけではありません。表向きは静かな街並みでも、扉の向こうでは個々が賑やかな世界をそれぞれ楽しんでいます。そのギャップが日本らしくて、すごく好きですね。
これからの道のり
これからのMoondahliaの目標は何ですか?
Nayokenza: 僕にとっての目標は「持続可能な活動」です。いずれは、もし僕たちが決断すれば、本業を辞めて、音楽だけで生活できる状態を目指したいと思っています。とはいえ、2年間のうち18か月もツアーに出るような暮らし方は望んでいません。僕たちには家族もいて、それでは長続きしないからです。 そうではなく、レーベルからのサポート、チーム体制、映像や音響、制作に再投資できるような安定した収益が欲しいです。サイモンのようなエンジニアと対面で制作をしたり、海外でコラボレーションをする機会も作りたいです。もっと予算の制約に縛られない、洗練されたクリエイティブなミュージックビデオも作りたい。Moondahliaは自分たちの音楽で自立し、得た収益をすべてアートに還元できるような存在であってほしいんです。 Lucas: 僕は少し違う視点を持っています。現在取り組んでいる教育の仕事が大好きで、Moondahliaで生活費を稼ぐ必要はないと考えています。だからこそ不安やプレッシャーもなく、バンドの成功や失敗に人生を左右されるような感覚がないので、安心して音楽に向き合えているんです。 もちろん、バンドをもっと成長させたい気持ちはあります。日本を飛び出し、世界中のリスナーに僕たちの音楽を届けたい。カザフスタンでの反応は、それが十分に可能であることを示してくれました。今は何度もツアーを重ねなくても、映像やSNS、ライブパフォーマンス映像を通じて世界中にファンを広げられる時代です。僕が思い描く未来は、マルチカメラでのライブ映像や視覚的に力強い作品を制作し、オンラインでもMoondahliaの世界観を体験できるようにすることです。
届けたいメッセージ
音楽のキャリアを目指すアーティストや、過去の自分に伝えたいアドバイスはありますか?
Lucas: まず一番に伝えたいのは、結果や見返りを期待せずに、好きだからやることが大切だということです。僕がベースを始めたのは、高校のときに女の子から「バンドで弾いてみない?」と誘われたのがきっかけで、そのときは何の期待もしていませんでした。でもその選択が、19年間という年月の自信や規律、そして生きる目的になりました。音楽は自分が誰で、何ができるのかを知るための道になりました。だから始めたいなら、「好きだからやる」で十分なんです。たとえ誰も気づかなくても、絵を描いたり、映像を作ったり、音楽を作ったりして幸せを感じられるなら、それはもう成功なんです。 Nayokenza: 僕も同感ですが、ひとつ付け加えるなら、自分のエゴに振り回されないことですね。僕はヒップホップの出身で、誇示することがすべての文化の中で育ちました。でもバンドでは、自分本位になってしまうと創造性を壊してしまう。最高のコラボレーションは、メンバー全員が「自分が認められている」「自分の声が届いている」と感じられる空間から生まれます。その安全な場を作れなければ、制作は決してうまくいきません。 そして正直なところ、“セックス・ドラッグ・ロックンロール”のような古い価値観には飲まれないようにすることも大事です。そういうものは可能性を広げるどころか、道を閉ざしてしまうだけです。長く音楽を続けていくには、チャンスが訪れたときに掴めるよう、常に準備を整えておくことが大切です。 Lucas: あと、毎日無理やり自分を追い込む必要はないということも伝えたいですね。社会は「9時から6時まで生産的であるべき」と教えますが、創造性はそういう仕組みで動きません。ときには一歩引くことも必要です。ひたすら規律で自分を動かそうとすると、かえってその過程が嫌いになってしまう。バランスが大切で、規律と楽しさの両方が必要なんです。 Nayokenza: そうですね。僕の場合、モチベーションを保つために作業を細かく段階分けするようにしています。「EPを作らなきゃ」と考えると圧倒されますが、「今日はビートを作ってサウンドを少し重ねよう」と思えばできる。そこでルーカスがベースを加え、ひとつずつ積み重ねていくと、曲になるんです。そうすれば燃え尽きることもありません。 Lucas: ビジネスの側面から見ても、業界の仕組みを理解する必要があります。実際にはストリーミングではお金は稼げません。本当に収益につながるのは、グッズやチケット販売、コミュニティのサポートです。できる限り街中の音楽の場を支えてください。そうでなければアーティストは生き残れない。僕たちは本業の仕事があるから幸運ですが、多くのアーティストはそうではありません。音楽シーンを存続させるには、そこに関わる人々一人ひとりの力が必要なんです。 Nayokenza: そして、マーケティングという言葉にプレッシャーを感じてしまう人には、マーケティングを「物語を伝えること」だと捉えてほしいですね。人は曲だけに惹かれるのではなく、アーティストの物語や世界観に惹かれます。ファンが「Moondahliaを聴いている」と胸を張って言えるようになるということが、長く続くつながりを作るんです。 それから、「イタい存在」になることを恐れないでほしいです。多くの人は評価を恐れて挑戦できないけれど、「イタさ」はむしろ自由の証です。少しぎこちなくても、やらずに後悔するよりずっといい。誰かを傷つけない限り、自分の心からの表現ならリスクを取るべきです。 たまにルーカスが僕に言った言葉 “F**k it, we ball!”(くよくよせず、突っ込んでいこう)を思い出すんです。不安や居心地の悪さを突き抜けた先には、きっと素晴らしいものが待っているかもしれません。
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