UMU Tokyo

umu(うむ)は、東京にゆかりのある国内外のクリエイターにインタビューし、そのリアルな声や生き方を日英バイリンガルで発信するインディペンデント・メディアです。

グラフィックデザインへの再挑戦と写真を通して、クリエイティブなキャリアを築く

Sue

2025年9月14日

グラフィックデザインへの再挑戦と写真を通して、クリエイティブなキャリアを築く

マレーシア生まれのSue。19歳で東京へ渡り、大学でいろいろな表現に触れる中で、写真とエディトリアルに夢中になりました。そこで自分の“声”とスタイルを育てました。日本は今も第二のホームで、価値観や働き方、毎日の選択にまで影響しているといいます。「同じ瞬間は二度と来ない」を合言葉にポートレートを撮りつつ、最近はグラフィックデザインに再度挑戦しています。考えるだけじゃなく手を動かしてつくる、その衝動に素直に再スタートした彼女の、学びと制作を行き来しながら育てるしなやかなキャリアを追います。

自己紹介

あなたが誰で、どこ出身で、何をしているのかなど、自由に教えてください。

Sueです。28歳で、マレーシア出身です。19歳のときに東京に来て、日本語学校と大学で合わせて6年過ごしました。その間に友だちもたくさんできて、自分のクリエイティブな声やスタイルを見つけられたと思います。外国で6年暮らしたことで、人としてすごく成長できました。女の子から若い大人になった感覚というか。 日本は今でも、私の人生にとってとても大きな存在です。価値観や仕事への姿勢、日々の過ごし方、食の好み、人への接し方、アートやクリエイティブの作り方まで、私という人間に染み込んでいます。日本はずっと私の第二の故郷です。

心があたたかくなる話ですね。「仕事への姿勢」というのは、どんなことですか?

「やればできる」という姿勢で、前向きに挑戦すること。すぐに諦めないで、まずは自分で解決できないか考えてみる。そういうことです。

日本の職場環境は厳しいことで有名だったりしますよね。

今は変わってきていると聞きます。特にZ世代の価値観の強い会社では柔軟になってきた印象です。

Sueさんの職場はどうでしたか?

私はずっとアルバイトで、正社員として働いた経験はありません。だから日本の「正社員ならでは」の体験はしていません。でも学生をしながら働く中で、時間やお金、生活のバランスを取る感覚はすごく学べました。今でも日々の過ごし方にも影響していると感じます。

勉強と仕事を両立しながら、日本で追求したいクリエイティブは見つかりましたか?

はい。私は文化学園大学に通っていました。ファッションで有名な学校ですが、私は造形学部でした。そこではグラフィックデザイン、エディトリアルデザイン、パターンデザイン、写真、映像制作など、いろいろ幅広く学べます。ただ、3〜4年生のときはコロナで授業がオンライン中心になってしまって、十分に学べなかった感覚もあります。

幅広く色々なクリエイティブをやっていますよね。

そうですね。ただ今は一つに絞ってしっかり足場を作りたい気持ちもあります。まだどれにするか考え中です。コロナでちゃんと学べなかった、とばかり言い訳したくない。創造性を見つける道は必ずあるから、今も探している最中です。

特に好きなのは?

写真とエディトリアルデザインが好きです。今はデジタルが主流だけど、雑誌には紙ならではの言語があります。触れるし、ページをめくれるし、次号を楽しみに待つ感覚もある。FUDGEやPOPEYEみたいな。ティーン向けの雑誌もよく買っていました。ZINEも作りました。卒業制作で雑誌を作ったし、課題でミニZINEも。 実を言うと、私はけっこう怠け者なんです(笑)。なので、なるべく時間もお金もエネルギーも使わずに仕事を終わらせる工夫を考えるタイプです。昨日、昔の作品を振り返っていたんですが、そのとき小さなZINEを見つけました。バター紙と画用紙で作ったもので、テーマは「手作りジュース」。家にいたころ、お父さんがよくジュースを作ってくれたんです。その家族との良い思い出をモチーフにしました。

きっかけ

Sueさんのクリエイティブの原点はいつ、どんなふうに始まったんですか?

4歳の頃に絵を描き始めました。クレヨンや色鉛筆、水彩へと広がって、そこからグラフィック、写真へと興味が続きました。幼いころの変な記憶をよく覚えていて、そういうところから創造性が芽生えた気がします。最初はコミックのようにコマで物語を描いたりして。大人になってからは、作品に感情を注ぐようになりました。写真ではビビッドな色を使うこともあれば、何か違うと感じたら思い切ってモノクロにすることもあります。強い色か、すごく抑えた色か、白黒か。複雑にしすぎないように選びます。

ポートレートでは初対面の人とも向き合いますよね。ご自身を内向的だと表現していましたが、どうやって臨んでいますか?

私の一番得意なのがポートレートなんです。人を撮るときは、まずおしゃべりして相手を理解します。何が好きで、どんな写真が欲しいのか、性格もつかみます。撮影中に緊張していたら、その人の好きな話題を振って自然に笑ってもらう。最初は友人を撮って慣れて、のちに数人の初対面の方も撮りました。相手も緊張しているし、私も緊張します。でもいい会話ができると、良いものが生まれます。

最初の写真の仕事を覚えていますか?

日本の友だちがモデル事務所に応募する写真を撮ってあげたのが始まりです。ジャマイカ出身、ドイツ出身、アメリカと日本のハーフの友人など、何人か撮りました。それで「人と話しながら撮る」というやり方を学びました。友人からは「女性フォトグラファーの方が安心してもらえることもあるし、あなたは人をリラックスさせるのが上手だから、写真を真剣にやってみたら」と背中を押されました。少しですが謝礼をもらうこともありました。 グラフィックデザインでいうと、POSMが最初の仕事です。

つくる楽しさと難しさ

クリエイティブなことをしていて一番うれしい瞬間について教えてください。

写真でいうと、撮っていて「つかめた」と感じたときです。目では見えたのに、撮るのが間に合わないこともある。でもちゃんと捉えられたときはうれしい。編集で良い仕上がりになったときもうれしいです。フィルムは撮影時に結果が見えないので、現像で良い写真が出来たら特別嬉しいですね。 グラフィックはここ最近またやり始めたものではあるんですが、限られたスペースに入れたい情報がたくさんあっても、気持ちよく整理してレイアウトできたときが嬉しいです。情報設計に近い喜びですね。最近Figmaを使ってUI/UXも学び中です。本格的に身につけたい。いつかアプリのデザインもしてみたいです。

一度、グラフィックから離れた時期があったんですね。

はい。学生時代、Photoshopを学ぶのが難しかったんです。Illustratorの方が少し分かりやすかったけれど、両方とも英語のUIに慣れるのも大変なのに、授業は日本語。まだ日本語を勉強していた段階で、日本語でデザインを学ぶのが難しかった。だから当時はグラフィックではなく、メディア制作やビジュアルコミュニケーションに軸足を移しました。写真を撮って、それを雑誌の形にまとめる、といったことをやっていました。 今はYouTubeで学んだり、Figmaで手を動かしたりしながら、フリーランスのクリエイターとして少しずつ感覚が戻ってきている感じです。戻ってきて初めてのクリエイティブの仕事は、ディフューザーのブランドでのコピーライティングでした。毎日雑誌や本を読みながら書きました。 最初は難しく感じても、できることが増えると楽しくなって続けられる。日本での経験がそれを思い出させてくれます。最初のスピーチ、初めてのアルバイト、そして大学卒業。少しずつ前に進めたから、今後も続けたいなと思います。

価値観の定義

Sueさんにとって、写真とは?

「二度と同じようには来ない瞬間を捉えること」です。日本に来た理由とも少しつながります。最初はアメリカやヨーロッパに行きたいと思っていました。英語が通じやすいし。でも日本に行くチャンスが巡ってきて、「こういう機会はきっと人生で二度と来ない」と思って行くことにしました。写真も同じで、「今」を見つけたら捉えたい。二度と同じ瞬間は戻らないですから。

写真を撮り始めたのは15歳からでしたね。

はい。誕生日にデジカメをもらって、今もそれを大切に使っています。フィルムカメラやスマホも使いますが、フィルムはまだ勉強中。デジカメには写真の「本質」を掴む良さがあると感じます。設定が多く、きれいに見えるものでも必ずしもきれいに撮れるわけじゃない。逆に被写体が地味でも、撮る側のスキルがあれば美しく写せる。日本を離れる前にフィルムカメラは手放しましたが、写ルンですのような使い切りカメラも好きです。現像してみないと分からないから、うまく写っていたときは本当にうれしい。フィルムは高いし、たまに一本まるごと真っ黒だったこともありますけどね。なので「きちんと訓練を受けたプロの写真家」とまでは言えないけれど、今も大好きな趣味です。

お金が絡むことで、心持ちは変わりましたか?

当時はプロではなかったので、あまり変わりませんでした。好きだからやる、という気持ちが大きかったです。ただ家族が広告会社を営んでいるので、お金が発生するということは現場での無茶な修正や現実的でない要求が起きがちだということも理解しているんです。

少し抽象的な質問をさせてください。グラフィックデザインや写真は、あなたの人生にどんな影響を与えましたか?

グラフィックデザインは「整える」という感覚を教えてくれました。何事もきれいに、秩序立てて考えること。写真は、物事を深く見ることを教えてくれました。表面は美しく見えても、その裏に物語がある。そこを見る目を育ててくれたと思います。

これからの道のり

将来の目標はありますか?

今の大きな目標は、デジタルプロダクトのデザイナーになることです。UI/UXはまだ学び始めたばかりですが、グラフィックもやっぱり楽しいですね。もし「やめたい」と思うことがあっても、多くの場合は休憩が必要なだけな気がしています。休めば、やる気はまた戻ってくる。私もそうでした。何年か離れて、突然またやりたくなって戻ってきました。 きっかけは、現職でマーケティングなどクリエイティブに関わることをしているのに、実際に「作る」ことができていないと感じたからです。クリエイティブなことを考えたら、自然と作りたくなりますよね。インプットしたら、どこかでアウトプットしたくなるんです。

いいですね。これからグラフィックデザイナーの職に応募するんですか?

迷っています。自分が「準備できた」と思えたタイミングで挑戦したいです。今はまだウォーミングアップ中ですが、できると信じています。今はフリーランスで、いずれは会社員としてのクリエイティブ職にも挑戦したいと思っています。最近の仕事では、ケーキ屋さんの写真選定やレイアウト、コピー制作などを担当しました。言葉も好きなので、コピーライティングも楽しいです。

届けたいメッセージ

最後の質問です。過去の自分にアドバイスをするとしたら?

勇気を持って自分のスタイルを表現して、他人の目を気にしすぎないで、と伝えたいです。自分のスタイルこそが自分らしさ。必要なときは休んで、決して諦めないこと。長く離れても戻ってこれるから。

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